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*クドア食中毒*

「*」左の記号の名称をご存じですか?
この記号は、アスタリスクといいます。近年、このアスタリスクに似た花のような寄生虫が話題となっています。

各地方で生鮮魚介類の生食による原因不明の食中毒が発生していたため、平成20年後半から国立医薬品食品衛生研究所を中心にその原因解明が進められました。その結果、平成23年の6月に厚生労働省から、ヒラメに寄生するkudoaseptempunctataという寄生虫が原因であるとの見解が得られ、食中毒の病因として取り扱うという通知が出されました。
kudoaseptempunctata(クドア)は、和名をナナホシクドアといいミクソゾア門多殻目に属する粘液胞子虫類の一種です。粘液胞子虫とは、その多くが魚類の筋肉に寄生する寄生虫です。ヒトなどの哺乳類には寄生せず、現在わかっている限りではその中でこのクドアが唯一の食中毒を起こす寄生虫です。
クドアは、大きさが約10μmで、5~7個のコイル状の極糸を持つ極嚢という構造をもち、特徴的な花びら状の形態を示します。これは、通常の顕微鏡観察で容易に識別できます。
その生活環は、まだほとんど解明されておらず、どのようにしてヒラメへの寄生をおこなうのかはわかっていませんが、他のクドア属の例では魚類と環形動物(ミミズやゴカイなど)を交互に宿主にしています。つまり、ヒラメからヒラメへの水平感染は通常起こらず、養殖場の水槽の中でクドアの感染が広がることはないと考えられています。
クドアによる食中毒には季節性があり、主に9・10月に多発するという特徴があります。ヒラメの摂取量はこの時期には減少するため、発生件数と取扱量には関連が無いと考えられています。食中毒としての症状は、下痢が79.7%でもっとも多く、次に嘔吐の57.6%が続きます。潜伏期の中央値は5.0時間(範囲:1.0~22.0時間)で、予後は良好で約24時間以内にほとんどの症状がおさまります。
クドア特定のための検査については、平成23年7月に厚生労働省から「ヒラメからのkudoaseptempunctata検査法(暫定)」が通知されました。この検査法は、〔A:.顕微鏡検査で直接クドアの胞子数を計測する〕〔B:リアルタイムPCR法検査法による遺伝子検査(クドアrDNAのコピー数が107/1g以上をPCR陽性とする)〕のどちらかの方法を用います。
ところで、クドアはヒトの体内で、どのように食中毒症状を起こすのでしょうか?
ヒトの培養腸管細胞であるCaco-2細胞を用いた実験の結果から、その病原性は他の寄生虫のように毒素や虫体成分が細胞に作用して毒性を示す、といった単純なものではないということがわかりました※。クドアの胞子は腸管細胞に感染したときにのみ、胞子原形質というものを産生し、それが細胞に侵入して腸管が障害され、下痢が引き起こされます。この胞子原形質は短時間で細胞侵入を行い、短時間で分解されます。これが、クドア食中毒の予後が良好である一因であると考えられています。
※:食中毒原因物質としての“クドア”に関する最新の知見;大西貴弘.モダンメディア58巻7号,2012
クドア食中毒を予防するには、-80℃で2時間もしくは-20℃で4時間以上の保存によって失活させる方法がありますが、冷凍処理によってヒラメの商品価値が下がってしまうため、予防法としては使用しにくいです。よって対策として、クドア感染稚魚の排除や、養殖場でのモニタリングなどが行われています。
本例のように、発生が地域に限定されていたり、また症例数が少ない場合、原因不明として処理されてはいるけれども、実際には寄生虫感染であった、といった例がまだ存在しているのかも知れないですね。

一般検査室 蒲生夏美