検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

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エンターテインメントとしての遺伝子検査

今回は「医療ではない」遺伝子検査についてのお話です。
近年様々なメディアで取り上げられ話題になっている「遺伝子検査サービス」をご存知ですか?指定のキットに唾液などを採取して業者に送ると、将来どのような病気に罹り易いかや、体質、はたまた音楽の才能などまでも判定できると謳われています。病気の罹り易さなど、自分の体質に興味を持つ事は意識や行動を変えるきっかけにもなるという点では良い事だとは思いますが、「遺伝子」とはとても「難解」なものです。その点について知っておいて頂きたい事を、今回はふたつほどお話しさせて頂きます。
ひとつめとして、このような遺伝子検査サービスというものは検査データと学術論文の統計データを比較しているに過ぎないという事です。そして、学術論文があるからといってその解釈が必ずしも正しいとは限りません。一般的に臨床研究では、先行する研究と正反対の結果の論文が出る事はよくありますし、そのような知見を蓄積することで将来の「医療として」の検査が確立されていきます。実際、今の遺伝子検査サービスについてThe New York Times紙で次のような内容の記事が掲載されました。『ある同一人物が3つの会社の遺伝子検査を利用したところA社では乾癬のリスクが20.2%だったのに対しB社では2.0%だった。また、2型糖尿病のリスクがA社では15.7%で低リスクの判定だったが、B社では10.3%にもかかわらず中間型と判定された。』この記事も示している通り、遺伝子検査は現段階では何をもってリスクが高いと判定するのか標準化された基準が定められていません。
ふたつめとしては、遺伝子検査の精度そのものについてのお話しです。検査には100%の結果を保証するものはありません。検査の結果には、少なからず誤差や偽陽性(実際は陰性なのに陽性と判定すること)や、偽陰性(実際は陽性なのに陰性と判定すること)という言葉が付きまとってきます。医療機関の検査技師は、その検査の特性を十分に理解し、そのような誤差を最小限に留めるために、毎日検査項目ひとつひとつについて精度管理を行い、疑わしい測定結果は再検査を実施したり、別方法の検査をすることで確認し、また、外部機関の認定を取得することによって検査の高い質を担保しています。一般的に遺伝子検査で扱う解析技術というものは精度が高いとされていますが、実際に業者において適切な手順で検査が運用されているのか、それを確かめる制度はまだ定まっていないのが現状です。
題名にも書きましたが、今の一般消費者向けの遺伝子検査サービスは、エンタメ要素を色濃く感じます。もちろん学術的に根拠が高い検査項目もありますが、その判定を鵜呑みにし、服用している薬を個人の判断で勝手に減らしたりすることは大きな危険性を孕んでいます。この遺伝子検査サービスはまだ発展途上ですが、急速に発展を遂げている分野でもあります。現時点で、どのような遺伝子検査が診療に用いられているかは、次の機会にお話しさせて頂きます。
参考文献
  • 「遺伝子検査ビジネスに関する調査」- 経済産業省
  • 「I Had My DNA Picture Taken, With Varying Results」- The New York Times

血液検査室 安井優太郎