検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

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アメーバ赤痢

アメーバ赤痢は、赤痢アメーバという原虫が病原体となって大腸に潰瘍を形成し、下痢、腹痛といった臨床症状を示す感染症です。
赤痢アメーバにはシスト(嚢子)と栄養体の二つの形態があり、シストを口から摂取し感染します。口から入ったシストは小腸で脱嚢してアメーバ運動をする栄養体に変化します。栄養体は大腸に達して分裂増殖し、大腸粘膜を破壊してアメーバ赤痢に特有な壺型の潰瘍を形成します。稀に、血行性に肝蔵へ移行して肝膿瘍を形成することもあります。大腸に寄生した栄養体の一部は再びシストとなり糞便中に出て感染源となります。
当院の臨床検査部では顕微鏡を使って、便、大腸洗浄液あるいは肝膿瘍液中のシストや栄養体を探す検査を行っています。
シストは下痢、腹痛など臨床症状のない感染者の便にも認められます。この便を顕微鏡で観察すると、食物残渣の中に白血球の2倍くらいの大きさで光沢のある灰白色をした、ちょうど一円玉のように見えるシストが見つかります。顕微鏡の倍率を400倍にして微動ネジを細かく動かしながら観察すると、中央部に棍棒状の類染色体や丸い核を捉えることができます。無染色でシストの存在を確認したら、次はヨード・ヨードカリ染色を行なってシストを黄色に染め、核の数を調べます。核が3~4個認められれば赤痢アメーバのシストに確定です。
一方、赤痢アメーバの栄養体は下痢便や大腸洗浄液、肝膿瘍液中に認められます。大きさは白血球の3~4倍くらいで、色は灰白色半透明、細胞内にヒトの赤血球を貪食しているものもあり、仮足を出しながら動いています。体外に出た直後の栄養体は活発に動きますが、温度の変化に弱いため時間の経過とともに運動性が低下します。動きが無くなり形が円形になってしまうと腸由来の細胞との区別が難しくなります。そこで検査部では、鏡検に必要なスライドガラスなどはあらかじめ温めておくなど、保温に気を付けながら検査を行い、動いているものを探し出すようにしています。また、ヒトの赤血球を貪食している栄養体を探し出すことも赤痢アメーバであることを確定するうえで重要なポイントになります。
アメーバ赤痢は発展途上国など衛生環境の悪い地域に多く見られ、シストに汚染された水、生野菜などを経口摂取することにより感染します。以前は輸入感染症であったアメーバ赤痢ですが、1980年頃から先進国の都市部を中心に患者数が増加しました。原因は、男性同性愛者間での肛門に直接接触する性行為によるものです1)。国立感染症研究所の感染症情報センターによると2)、日本でも国内で感染するケースが7割を占め、罹患率は男性が女性の約8倍と、男性に多くみられます。
アメーバ赤痢の症状は下痢、粘血便、排便時の下腹部痛などで、周期的に増悪と寛解を繰り返します。梅毒、エイズなどを合併していることもありますので、気になる方は感染症外来を設けている医療機関への受診をお勧めします。

臨床検査部 桑村自奈子

参考文献
  • 1)内田明彦,川上泰,佐伯英治,他,カラー写真とデータでみるパラサイト学(感染症対策を含めて),第1版,メディカグローブ,青森,2005;12-13.
  • 2)国立感染症研究所感染症情報センター,アメーバ赤痢,IDWR 2007年第44号「速報」,入手先〈http://idsc.nih.go.jp〉

赤痢アメーバシスト 無染色(×400)

赤痢アメーバ栄養体 無染色(×400)