検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
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pHってなんだ?
皆さんはpHって知っていますか?pHは水溶液の性質を表す単位の一つで、溶液中の水素イオンの濃度を表します。水質調査や食品の品質管理にも用いられるとてもメジャーなものです。pHの値は通常1~14とされ、pH7を中性とし、これより低い方を酸性、高い方を塩基性(またはアルカリ性)といいます。小学校の理科のリトマス試験紙を使った実験や、ボディソープのCMのフレーズで覚えがある方もいらっしゃることでしょう。
例えば食品。一般的に酸性のものはすっぱい味が、アルカリ性のものは苦い味がすると言われています。すっぱい味のする食品の代表、レモンはおよそpH2です。しかしレモンはアルカリ性食品と言われます。なぜでしょう。実は食品の酸性、アルカリ性は食品そのもののpHではなく体内で吸収されるときのpHによって決められています。もう少し詳しく言うと、食品を体内で消化したあとに残る成分、ミネラルのpHを判定しているのです。つまりレモンの場合、レモンそのものは酸性ですが、体内で消化・吸収された際にはアルカリ性を示すので分類としてはアルカリ性食品になるのです。酸性を示すミネラルには、塩素・リン・硫黄などがあり、肉類・魚類・卵・砂糖・穀類は酸性食品です。また、アルカリ性を示すミネラルには、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどがあり、野菜・果物・海藻・きのこ・大豆はアルカリ性食品です。両方の食品をバランスよくとる状態が理想ですが、現代の生活では酸性食品を多くとる傾向にあるため、不足しがちなアルカリ性のミネラルを食品やサプリメントによって補うことが大切です。
では、私たちのからだを流れる血液はどうでしょう。健常な人の動脈血はpH7.35~7.45くらいで中性に近い値をとります。基準範囲はとても狭いです。医療の世界ではこの範囲よりもpHが低くなる(酸性に近づく)病態をアシドーシス、pHが高くなる(塩基性に近づく)病態をアルカローシスと言います。通常私たちは血液中の物質の量を調節してpHを一定に保っています。人の血液中でpHに大きな影響を及ぼすのは肺の機能を反映する二酸化炭素(CO2)と腎臓の機能を反映する重炭酸イオン(HCO3⁻)です。その様子はよく天秤で例えられます(図)。二酸化炭素が増加したり重炭酸イオンが減少したりするとpHは酸性に傾き、反対に二酸化炭素が減少したり重炭酸イオンが増加したりするとpHは塩基性に傾くというわけです。また、傾いたpHを元に戻そうとする動き(これを「代償」といいます)も見られます。例えば呼吸がうまくできない状態にあるとき、肺での二酸化炭素の排出ができないために血液中の二酸化炭素は増加します。その結果pHは酸性に傾きます。この場合私たちは、重炭酸イオンの腎臓での排出を抑えたり、産生を促したりすることで血液中の重炭酸イオンを増やし、pHのバランスをとるのです。
この血液のpHを測る臨床検査には血液ガス分析というものがあります。この検査では、メインのpH・酸素・二酸化炭素・重炭酸イオンといった項目だけではなく、電解質(ナトリウム・カリウム・カルシウムなど)やヘモグロビンなどの項目も同時に測定することができます。その大きな特徴は結果が出るまでの早さです。注射器型の専用容器に血液を採取し、よく撹拌して分析装置にセットすれば、わずか2~3分で結果が出ます。
血液ガス分析は救急室では欠かせない検査です。搬送されてきた患者さん「今どういう状態なのだろう?」「酸素が不足してない?」「肺の状態は?」「意識が無いようだけれど原因はなんだろう?」「とにかく早く手がかりが欲しい!」そういった場面で活躍する、とても頼りになる検査です。
臨床化学検査室 奧村美咲
図引用改変:
- 大塚将秀 著
Dr.大塚の血液ガスのなぜ?がわかる 基礎から学ぶ酸塩基平衡と酸素化の評価
学研メディカル秀潤社2012