検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

【お問い合わせ先】

東邦大学医療センター
大森病院 臨床検査部

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)

α‐リポ酸とインスリン自己免疫症候群の関係について

近年、ダイエットサプリとして注目されているα‐リポ酸をご存知ですか?
ダイエットに限らず、アンチエイジング、疲労回復にも効果が期待されているα‐リポ酸、とても魅力的ですよね。身体にとって良い働きをしてくれるα‐リポ酸ですが、最近ではインスリン自己免疫症候群(insulin autoimmune syndrome : IAS)への関与が疑われる症例が、いくつか報告されています。
そこで今回はα‐リポ酸とインスリン自己免疫症候群の関係についてお話したいと思います。
α‐リポ酸とは牛・豚の肝臓や心臓、ジャガイモやホウレンソウなどの野菜に含まれている物質で、主に抗酸化作用と、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生の促進の2つの働きがあります。抗酸化作用としてはビタミンCやビタミンEといった体内の抗酸化物質の産生、金属キレート作用による重金属中毒の解毒作用などが報告されており、健康食品だけではなく医薬品としても、激しい肉体疲労や内耳性難聴に治療効果があるとして用いられています。
α‐リポ酸の服用による有害事象のひとつにインスリン自己免疫症候群が挙げられます。インスリン自己免疫症候群とは、すい臓で産生され血糖を低下させるホルモンであるインスリンに対する自己抗体が産生されてしまう病気です。この自己抗体は、インスリンと結合しやすく遊離しやすいという特徴があります。体内で産生されているインスリンに対して自己抗体が結合すると、インスリンは作用を失いますので、身体はインスリンが少ないと判断します。そうなると、すい臓はインスリンを追加産生することになりますが、しばらくすると結合していた自己抗体が遊離するため、元々のインスリンの作用が復活します。つまり、最終的に体内では大量のインスリンが存在し作用することになりますので、血糖が極端に低下する低血糖状態に陥ることになります。このインスリン自己免疫症候群の発症原因として①特定の遺伝的素因(HLA-DR4)②SH基構造を持つ薬剤、これらとの関連が疑われています。α‐リポ酸は本来SH基構造を持ちませんが、大量に摂取すると一部が還元されSH基構造を持つ物質に変化するため、②に該当します。
低血糖とは血糖値が基準値(70~120mg/dL)を超えて低下することです。特に血糖値が50mg/dL以下になると発汗、動悸、手指ふるえ、顔面蒼白、さらには意識レベルの低下や痙攣などの症状が出現し、昏睡状態に陥ることもあります。
この低血糖を知るには、血液中の血糖値を測定しなければなりません。血糖値を測定する機器は様々なものがあり、目的に応じて3種類に大別されます。患者さん自身が使用するSMBG機器、医師や看護師がベッドサイドなどで使用するPOCT機器、検査室などで臨床検査技師が使用する自動分析装置などがあります。前者2つが全血(そのままの血液)を用いるため、簡易的で早く結果が分かります。対して、自動分析装置を用いた測定では、遠心して血球成分を除いた血漿を用いて測定するため、少しだけ手間がかかりますが、多くの検体を取り扱う施設では非常に有用です。
今回のコラムを読んで、α‐リポ酸に対する印象が少し変わった方もいるかもしれません。サプリメントに頼り切りになることはおすすめしませんがα‐リポ酸には前述したような身体に良い面や治療に用いられることもあるので、服用量を守ることがとても大切です。

免疫血清検査室 加藤美彩樹

[参考文献]