検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
冬の脱水と電解質
以前のコラムでも書かれているとおり夏は脱水症状が起こりやすいのですが、乾燥している冬でも脱水に気をつけなければなりません。冬にもかくれ脱水があるのです。
冬は外気が乾燥し湿度も低下するため、皮膚や粘膜、呼吸から水分が知らないうちに失われています。また、暖房器具の使用や住まいの気密性の向上により屋外以上に室内が乾燥しやすくなっていて、屋外に比べて湿度が10~20%低くなっています。さらに夏と違って汗をかいたり喉が渇いたりしないため、水分補給をあまり意識しなくなってしまい、気がつかないうちに水分が足りなくなってしまいます。これが「冬のかくれ脱水」です。かくれ脱水の症状として挙げられるのは身体のだるさ、頭痛、肌の乾燥、口内のねばつき、足のむくみ、集中力・やる気・気力の低下、めまいや立ちくらみ、食欲不振などです。これらの症状の原因が脱水であるとは考えにくいかもしれません。
脱水は水分とともに体内の電解質が失われます。主な電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンがあります。これらは血液検査によって測定することが可能です。電解質の役割は主に、神経や筋肉機能の調整、酸と塩基のバランス(体内のpH)の維持、水分バランスの維持です。不足すると欠乏症や不調の原因となりますが、取りすぎると中毒をおこす場合があります。
体内の水分調節に大きくかかわっているのがナトリウムです。主に食塩に含まれています。水分とナトリウムの調節は腎臓で行われています。腎臓の機能が低下すると尿量が減り、体外に水分が排出されなくなるため顔や手足がむくみます。この時、体内のナトリウムは水分で薄まり血中ナトリウムは低値になります。また、肝硬変や心不全などの病気でも尿量が減るため同じことがいえます。ナトリウムが高値となる原因のほとんどは水分の欠乏で、激しい発汗や下痢、おう吐、熱中症などによる脱水により起こります。通常は塩分を取りすぎても喉が渇き、水分をとるよう身体が自然と調節するため取りすぎでナトリウム値が上がることはありません。その際にナトリウムを体外に出しやすくし、塩分の取りすぎを調節する役割を担っているのがカリウムです。
カリウムは神経の興奮や心筋の働きを助ける役割があります。体内のカリウムの90%は尿に排泄されて体外に出ます。そのため、腎機能の低下で尿量が少なくなると血中カリウムは高値となります。また、激しい運動や溶血性疾患では細胞内のカリウムが細胞外へ放出されるため、値が上昇します。一方、下痢やおう吐などで水分が体外に出てしまうと一緒にカリウムも排出されてしまうため血中カリウムは低値となります。また、利尿剤の服用で尿量が増加した場合や、腎臓からカリウムが異常に失われる疾患(クッシング症候群など)でも低値となります。カリウムが高値になると不整脈などの症状が出現する場合があります。反対に低値では全身のけいれんや筋力低下、意識障害などが出現するため、血液検査で異常を認めた場合は原因の追及や治療が必要となります。普通の食生活では取りすぎになることはほとんどありませんが、腎機能が低下している方ではカリウムが排泄されにくく高値になりやすいため、摂取量には注意が必要です。
電解質は体内で合成することが出来ず、ほとんどが食事からの摂取となります。小松菜やホウレン草などの緑黄色野菜は水分と電解質(ミネラル)が豊富です。また、季節の果物は水分がたっぷり含まれており、ビタミンも豊富です。バランスのとれた美味しい食事で乾燥した冬を健康に乗り切りましょう!
血液検査室 田中詩帆
[参考文献]
- Nutrition Care 2016 vol.9 no.2 112-115 ⑤ナトリウム ⑥カリウム
高齢者の病気と薬 Vol.17 no.6 57-59 ③水・電解質異常(脱水症)
健康生活 冬の乾燥や頭痛は危険な脱水症状かも!冬のかくれ脱水で起こる症状
https://health-to-you.jp/dehydration/kakuredassuiyobou7854/ - いしゃまち 電解質検査 電解質の役割、ナトリウム・カリウムが異常値となる原因とは?
https://www.ishamachi.com/?p=35283
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