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蛇の毒

冬の寒さもようやく緩みはじめ、やわらかな日差しが心地よく感じる季節となりました。冬眠していた動物たちも厳しい冬を乗り越えて、活動を始めていることでしょう。冬眠をする動物には小さいものから大きいものまで‥例えばコウモリからホッキョクグマまでと、多種多様な生物が存在します。今回は、冬眠する生物のなかでも蛇、特に毒蛇が関与する検査のお話をします。
血液凝固検査にループスアンチコアグラント(以下LA)という検査項目があります。LAは抗リン脂質抗体症候群の診断的検査項目のひとつであり、特に血栓症状との関連が強いとされています。細胞膜を構成するリン脂質やリン脂質に結合した蛋白質を抗原とする(認識する)自己抗体を抗リン脂質抗体といい、LAは抗リン脂質抗体のひとつです。血液中に抗リン脂質抗体が出現し、動静脈血栓症や妊娠合併症などの臨床症状を呈する患者群を総称して抗リン脂質抗体症候群とよびます。これは、本来自分の身体を守るための免疫機構が自己抗体の生成により自己を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつと考えられています。主な病態としては脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症、子宮内胎児死亡や習慣流産などが挙げられます。
LAを検出するための臨床検査には、ラッセルクサリヘビの蛇毒を利用する希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)法があります。通常、血管が破れて出血した際、血液が固まることで出血が抑えられますが、その止血作用には血液中の凝固因子と呼ばれるものが働いています。ラッセルクサリヘビの蛇毒には血漿中の凝固因子のひとつである第Ⅹ因子を直接活性化することで凝固反応を開始させるという作用があり、血管内で凝固因子が大量に消費されることにより、止血ができなくなります。希釈ラッセル蛇毒時間法はLAがリン脂質に結合し、凝固反応を抑制することを検出する検査法です。LAは生体内において凝固反応を促進し血栓症状をきたしますが、試験管内では凝固反応を抑制させるというパラドックスを有しています。本法は血漿に濃度の異なるリン脂質を加えてそこに蛇毒を反応させ、そのふたつの凝固時間の比を求めることで間接的にLAを検出します。第Ⅹ因子より先に凝固反応に関与する凝固因子(第Ⅷ因子等)の影響を受けない為、特異的にLAを検出できますが、確定診断には他法の併用が望ましいとされています。当院では外部委託検査によりLAの測定が行われ、数日ほどで結果報告が可能です。
蛇は古くから人々に恐れられてきた反面、神の遣いや神の象徴として崇められてきました。現代では蛇の形態や、ときに死をもたらす毒蛇の存在から、人々に恐れられる生物とされています。しかし一方で、蛇の毒は今回紹介したような検査に利用される等、医療において私たちは普段恐れている蛇の恩恵を受けていることも確かです。

血液検査室 木場奈美恵

[参考文献]
  • 一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集
  • 抗リン脂質抗体症候群の臨床検査 家子正裕
    シスメックス株式会社 2008年