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実は身近な横紋筋融解症

「横紋筋融解症」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。“筋肉が溶ける”…文字面から連想すると、不気味な印象を受けます。それでは「横紋筋融解症」とは一体何なのでしょうか。
横紋筋とは、心臓を動かす「心筋」と体を動かす「骨格筋」を指します。横紋筋融解症は、特に骨格筋に見られ、骨格筋を構成する筋細胞が融解・壊死することで、筋肉痛や脱力を生じる病態です。そのまま放っておくと、起き上がることや歩行が困難になり、腎不全などを合併し、回復に長期間を要すことがあります。
骨格筋が融解すると、骨格筋細胞に含まれる様々な物質が血中に大量に放出され、それらの代表としてミオグロビンとクレアチンキナーゼ(CK)が挙げられます。どちらも骨格筋が融解後、血液を介して腎臓に到達すると物理的に尿細管閉塞になり、急性腎不全を来します。ミオグロビンは尿中に排出されると尿が赤褐色を呈し、血尿のような色になります。この特徴的な症状を「ミオグロビン尿症」と呼びます。一方、CKはミオグロビンのような特徴的な症状は認められませんが、骨格筋の融解程度によって血中に放出される量が変化し、CK値が5,000U/L以上(基準範囲:40~250U/L)に顕著な上昇が認められ、また半減期が12時間程度と短いため横紋筋融解症の治療効果のモニターとして用いられます。このように特徴的な症状と検査所見から、横紋筋融解症はミオグロビン尿の検出と血中CK値の上昇が診断に重要とされています。
横紋筋融解症を発症する原因として、直接的原因と間接的原因があります。直接的原因は、過去のコラム「クラッシュ症候群をご存知ですか?」でも述べていますが、災害などによって長時間に渡り、四肢が圧迫された場合などに発症します。一方、間接的原因としては、過度のアルコール摂取、過度の運動などが挙げられます。また、この季節に注意すべき熱中症も原因となる可能性があります。これは、高温下において体温調節機能が破綻し、身体の深部温度が40℃を超えると筋細胞が変性し、横紋筋融解症となります。脱水症状がある場合さらに筋肉が損傷しやすい状態となるため、水分補給が重要です。また、身近で気を付けて頂きたいのが、薬剤による副作用として発症する場合です。スタチン系高脂血症治療薬(スタチン)やニューキノロン系化学療法薬(ニューキノロン)による横紋筋融解症がよく知られていますが、この他にも抗精神病薬や麻酔薬など様々な薬剤の副作用によっても発症することが報告されています。
前述のように、横紋筋融解症の症状として筋肉痛、筋力低下、脱力、麻痺、ミオグロビン尿があります。筋肉痛や筋力の低下などは運動後にも起こるので分かりづらいかもしれませんが、ミオグロビン尿は見た目にも血尿と似ており、分かりやすいと思います。「手足・肩・腰・その他の筋肉が痛む」、「手足がしびれる」、「手足に力がはいらない」、「こわばる」、「全身がだるい」、「尿の色が赤褐色になる」などの症状が見られた場合は、すぐに医師に相談してください。

免疫・臨床化学検査室 加藤大樹

参考文献

  1. 「薬剤性横紋筋融解症」大矢 寧・水澤 英洋
    医学のあゆみ Vol.251 No.9 2014.11.29
  2. 「重篤副作用疾患別対応マニュアル横紋筋融解症」
    http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d8.pdf
  3. 「病院の検査の基礎知識」
    http://medical-checkup.info/article/53660221.html
  4. 「スポーツ科学・栄養についての研究 6-1.クレアチンとは」
    http://www.glico.co.jp/laboratory/health_science/sports/sports06_1.html