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膵臓がんの現在とこれから

 不治の病として恐れられていた癌ですが、早期発見・早期治療を行えば完治が望める病気となってきました。しかし、実際の診療では臨床症状があらわれてから様々な検査を行うので、残念なことに発見された時点で癌が進行してしまい、予後不良の場合も少なくありません。
 特に、膵臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれるように、膵臓がんの初期は臨床症状が現れにくく、気付いた時にはすでに転移していたり、手遅れになっていたりする事も多い臓器です。そこで近年、癌を早期発見するため、様々な検査やバイオマーカーの研究・開発が進められています。今回は、膵臓がんに関する検査の現状をお話します。
 膵臓は、胃の後ろにある約15cmのくさび型の臓器で、食物の消化吸収に利用される膵液の分泌(外分泌機能)と、血糖調節を行うインスリンやグルカゴンなどのホルモンの産生(内分泌機能)を行う臓器です。膵臓がんの診断には膵酵素・腫瘍マーカーの測定や造影CTや造影MRIなどの画像検査、病理検査により行われます。
 なぜ膵臓がんは発見されにくいのでしょうか。前述したように自覚症状が現れにくいのに加え、内視鏡やエコーで観察しづらく効果的なスクリーニング検査がないため早期発見が困難となるのです。臨床検査では血液から膵酵素であるアミラーゼ(AMY)やエラスターゼ、腫瘍マーカーであるCEA、CA19-9、Span-1、DUPAN-2、CA50などの測定を行います。これらの検査は少量の採血及び短時間での測定が可能であり、いくつかの項目を組み合わせることにより、膵臓がんへの感度(病気の人を病気と診断できる能力)・特異度(病気でない人を病気でないと診断できる能力)の向上が試みられていますが、後述するように単独での診断は困難です。例えば、アミラーゼは膵臓や唾液腺から分泌され、特に膵型アミラーゼは膵管の閉塞により血中濃度が上昇します。膵臓がんだけでなく、急性・慢性膵炎などでも異常値を示すため特異性は低く、異常値を示す割合は20~50%程度と高くはありません。腫瘍マーカーの検出感度も50%前後のものが多く、初期の膵臓がんにおける陽性率は低いといわれています。CEAは大腸がんなどの消化器がんをはじめ肺がんや乳がんなど様々な疾患でも上昇するためCEAのみで癌の特定をする事は困難です。また、CA19-9は膵臓がんの経過観察(治療効果の判定)や再発の診断などに有用ですが、血糖コントロールの影響を受けたり、Lewis血液型で偽陰性を示したりします。一方、DUPAN-2はCA19-9とは逆にLewis血液型で高値を示すため、CA19-9との同時測定により膵がん、胆・肝道がんの補助診断に有用とされていますが、良性疾患により陽性化することも多いため膵臓がんに特異的な検査とは言えません。このように初期の膵臓がんを的確にとらえるマーカーが存在しないことも早期発見が困難な一因となっています。
 しかし、近年、膵臓がんの初期段階をとらえるバイオマーカーに関する研究は活発に進められています。国立がんセンターによる、血液1滴で膵臓がんを含む13種類の癌をマイクロRNAにより早期発見する新しい検査法の開発および臨床研究開始の発表も話題となりました。また、昨年には、血中タンパクであるinsulin-like growth factor-binding protein (IGFBP)2 およびIGFBP3 が早期膵臓がん患者で変化(IGFBP2は増加、IGFBP3は減少)が見られ、CA19-9との組み合わせにより早期膵臓がんの診断が可能となることが報告されました。依然として、膵臓がんは予後不良のがんの一つですが、有用なバイオマーカーの発見や測定の実用化により、スクリーニングとして少量の採血から検査することが可能となり、早期発見・早期治療、更には予後の改善に繋がるのではないでしょうか。

免疫・臨床化学検査室 迫屋 舞

参考文献

  • 「膵癌診療ガイドライン 2016年版」 日本膵臓学会
  • 「早期膵臓がんの血中バイオマーカー発見—既存マーカーとの組み合わせで診断の性能向上が可能に—」 国立大学法人熊本大学、国立研究開発法人日本医療研究開発機構