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糖尿病腎症と微量アルブミン
皆様、糖尿病には三大合併症とよばれる疾患が存在することはご存じでしょうか。糖尿病腎症、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害の3つを合わせて三大合併症と呼びます。いずれも高血糖の状態が続くことにより腎臓や網膜、四肢の細い血管が障害を受けることにより発症する糖尿病に代表的な合併症です。今回はその中の1つの糖尿病腎症と、この疾患に深い関わりをもつ微量アルブミン検査についてお話ししようと思います。
そもそも腎臓とは血液をろ過することにより、尿を生成する臓器です。しかし、糖尿病腎症では腎臓の糸球体とよばれる血液をろ過する組織が障害され腎機能が低下します。つまり尿中へのタンパク質の漏出や糸球体でのろ過量の減少がみられます。糖尿病腎症は尿中タンパク質のひとつであるアルブミンの量や、糸球体濾過量により、第1期から第5期に分類されます。それぞれ腎症前期、早期腎症期、顕性腎症期、腎不全期、透析療法期と呼ばれています。第2期までは自覚症状がなく、症状が現れる第3期まで進行してしまうと治療を行うことが困難になります。さらに進行し、第4期になると腎不全になり、第4期で透析療法を受けるに至った場合を第5期と呼びます。日本透析学会の報告では2015年で透析療法を受けている患者のうち、原因疾患が糖尿病腎症である割合は43.7%を占めており第1位となっています。また、予後は悪く、5年後の生存率は約50%といわれています。
このように非常に深刻な合併症ですが、急に腎不全になるわけではなく、徐々に腎機能が低下していくので病期分類の第2期までを早期発見し、早期治療を開始することが大切です。この早期発見に尿中微量アルブミン検査が有用とされています。
アルブミンはタンパク質のひとつで分子量が非常に小さいという特徴があります。健康な人では尿中にタンパク質が排泄されることはありませんが、糖尿病腎症により腎機能が低下するとタンパク質の排泄が起こります。アルブミンはタンパク質の中でも最初に排泄され、尿中微量アルブミン検査では糖尿病腎症の第2期(早期腎症期)から陽性になり、一般的な尿検査よりも鋭敏に検出する事が出来ます。第2期は糖尿病腎症において非常に重要な病期であり、治療により第1期へ改善させることができますが、自覚症状がなく発見が困難です。そのため、尿中微量アルブミン検査は第2期を発見することができる非常に重要な検査です。
実際は尿中微量アルブミン測定と併用して、起床時または来院時に採取した尿中アルブミンと腎機能の指標であるクレアチニンを測定し、アルブミン/クレアチニン比を求め病勢を評価します。アルブミン/クレアチニン比は1日のアルブミン排泄量に相当し正常値は30mg/日未満で、糖尿病腎症が進行している場合には上昇します。したがって、尿中微量アルブミンと尿中クレアチニンの量を考慮して重症度を分類し治療方針が決まります。
糖尿病腎症は気付かずに放置してしまうと治療が困難になる深刻な合併症です。しかし、尿中微量アルブミン検査により早期発見が可能であり、第2期のうちに発見できれば第1期まで改善させることができます。また、検査による早期発見も大切ですが専門家による指導を受け、生活習慣を改善し、進行を抑えることも大切です。
一般検査室 河本 希
参考
- 「糖尿病診療ガイドライン」
日本糖尿病学会 - 「糖尿病透析予防指導による療養行動の変化と Body Mass Index, 血糖コントロールの推移 - 腎症ステージへの影響 -」
多根総合病院医学雑誌 6(1): 71-73, 2017. - 「わが国の慢性透析療法」
日本透析医学会 - 「糖尿病性腎症の早期診断における尿検査」
臨牀と研究 93(8): 1093-1097,2016
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