検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
O157について
細菌が付着した食品などを摂取することで下痢などの中毒症状を起こすことを食中毒といいますが、この夏、埼玉県と群馬県の惣菜店で販売されたポテトサラダやマリネを食べた客が、腸管出血性大腸菌(O157)による食中毒を発症し、全員からO157が検出された報道は記憶に新しいと思います。
O157食中毒の報道として過去には、1982年に米国で起きた加熱不足によるハンバーガーによるものや、1996年夏に大阪府堺市の学校給食で起きたカイワレ大根によるものなどがあり、2000年以降では、2014年夏に静岡県の花火大会で起きた冷やしキュウリによるものなどが報告されています。今回はO157についてお話します。
O157食中毒の報道として過去には、1982年に米国で起きた加熱不足によるハンバーガーによるものや、1996年夏に大阪府堺市の学校給食で起きたカイワレ大根によるものなどがあり、2000年以降では、2014年夏に静岡県の花火大会で起きた冷やしキュウリによるものなどが報告されています。今回はO157についてお話します。
O157という名称は大腸菌表面の型(抗原)のO(オー)と、157番目に発見された大腸菌表面の型に由来します。細菌性食中毒の発生のメカニズムは2つあり、菌がヒトの消化管内で定着し、増殖して食中毒を起こす「感染型」と、菌が食品中で増殖して毒素が作られて食中毒を起こす「毒素型」で、O157は「感染型」に分類されます。ヒトに下痢をおこす大腸菌のことを病原性大腸菌といい、患者の症状と菌の病原因子によって腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)、毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)の4つに分類され、O157はこの4つのうち、腸管出血性大腸菌に属しています。腸管出血性大腸菌は、一般的な大腸菌と菌の性状はほぼ同じですが、ベロ毒素を産生することが大きな特徴です。
食中毒などを疑った患者さんの臨床検査は、対象となる患者さんの便検体を使用して微生物検査を実施します。検査室では便検体を培養し、細菌の有無、菌量および菌種を確認する検査(培養同定検査)を行い、検出された菌が病原性を持っているかどうかを調べます。病原性大腸菌の場合は、特定の血清型を示す場合が多いことから、病原性の有無の確認としてO抗原による血清型を調べます。O157がこれにあたります。ただし、病原性大腸菌として知られる血清型を示しても、病原性を持たない株があることから、病原因子の検出が必要になってきます。この病原因子の一つがベロ毒素です。
ベロ毒素の検出は、大腸菌が持つベロ毒素抗原を特異的に、認識する抗体を用いたイムノクロマト法で迅速に行われます。ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌はO157によるものが最も多く約80%を占めますが、それ以外にもO26、O111、O128、O145などの血清型が報告されています。
ベロ毒素は実験などに使われる培養細胞のベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓の細胞)に対して、致死的に作用することからこの名前がつけられています。ベロ毒素は細胞のタンパク質合成を抑制し、細胞を死滅させる作用があります。特に腎臓、脳、肺などが障害を起こすといわれており、腎臓に作用すれば溶血性尿毒症症候群(HUS)、脳に作用すれば血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などを発症することがあります。
ベロ毒素の検出は、大腸菌が持つベロ毒素抗原を特異的に、認識する抗体を用いたイムノクロマト法で迅速に行われます。ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌はO157によるものが最も多く約80%を占めますが、それ以外にもO26、O111、O128、O145などの血清型が報告されています。
ベロ毒素は実験などに使われる培養細胞のベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓の細胞)に対して、致死的に作用することからこの名前がつけられています。ベロ毒素は細胞のタンパク質合成を抑制し、細胞を死滅させる作用があります。特に腎臓、脳、肺などが障害を起こすといわれており、腎臓に作用すれば溶血性尿毒症症候群(HUS)、脳に作用すれば血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などを発症することがあります。
O157による食中毒の症状としては、多くの場合、3~5日の潜伏期を経て激しい腹痛をともなう頻回の水様便、又は血便が認められます。O157患者の約6%において、下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内に、脳症や溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症するといわれており、注意しなければなりません。合併症の一つであるHUSは、顔の血色が悪い、全身がだるい、尿が出にくい、浮腫などで、その他に幻覚、けいれんなどの臨床症状が見られ、血液検査や尿検査などで診断されます。HUSは治療が困難とされ、死に至ることもあります。
「感染型」食中毒のO157は熱に弱いので75℃で1分間加熱すれば死滅するといわれていますが、実は低温条件に強く、家庭の冷凍庫では生き残ることがわかっています。また酸性に強く、口から入ったO157の大部分は胃酸に抵抗性を示して体内で生き残り、消化管で増殖します。通常の食中毒では、体内に菌が100万個以上入らなければ発生しませんが、O157は感染力が非常に強いので、通常の1/10,000である100個程度でも食中毒を発生します。O157の増殖は低温と清潔を保つことで抑えることができるので、O157食中毒の予防策としては、①生野菜は良く洗い、食肉は中心部まで十分加熱し、②加熱調理済み食品が二次汚染を受けないよう、調理器具を十分洗浄・消毒し、③手指の洗浄・消毒を徹底することが大切です。
食にまつわる生活や文化が多種多様化している現代社会において、我々は感染を防止するために、手洗いをはじめとした食品に対しての衛生的な取扱い方を、いま一度再確認するべきではないでしょうか。
Vol.57, 2017.10
微生物検査室 前原 千佳子
参考文献
- 「腸管出血性大腸菌感染症とは」(国立感染症研究所)
- 「医療と健康」(日本医師会)
- 「医療機関のための腸管出血性大腸菌感染症治療の手引き」(厚生労働省)
コラム
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