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抗生物質リストセチンと臨床検査

抗生物質とは「カビや放線菌などの微生物によって作られ、他の微生物や生細胞の発育を阻害する有機物質」と辞書に記されています。アレクサンダー・フレミングがアオカビから発見した世界初の抗生物質「ペニシリン」についてはご存知の方が多いのではないでしょうか。第2次世界大戦時には多くの負傷兵がこのペニシリンの発見により命を救われたそうです。今回はこのような抗生物質のひとつであるリストセチンと臨床検査の関わりについてお話ししたいと思います。

リストセチンは放線菌類のNocardia lurida が産生分泌し、殺菌作用を示す抗生物質です。1970年代以前にはヨーロッパで治療薬として使われた時代があったのですが、副作用として血小板減少をきたすことが明らかとなり、現在ではヒトには投与されていません。しかし現在このリストセチンは巡り巡って臨床検査の世界で血小板機能検査の試薬の一つとして活躍しています。

ヒトが出血をすると傷口で血小板が凝集することで止血の機序が始まります。治療には使われなくなったリストセチンですが、この血小板を2つの分子を介して非常に特殊な仕組みで凝集させることがわかってきました。その2つの分子とは、血小板の膜にあるタンパクのGPIb/IX/V複合体と、血小板が傷口へ接着するための足場となるタンパクのフォン・ヴィレブラント因子の2つであり、そのどちらかが欠けてしまうとリストセチンは凝集を起こさないといわれています。それぞれの分子異常から生じるフォン・ヴィレブラント病(フォン・ヴィレブラント因子の異常)やベルナールスーリエ症候群(GPIb /IX/V複合体の異常)は止血機能に異常が起こるため、反復する鼻出血や歯肉出血などの出血症状を認める疾患です。これらの疾患は、患者の血液にリストセチンを添加しても血小板の凝集を示さないという点から、リストセチンは血小板機能を調べるための「血小板凝集能検査」と呼ばれるスクリーニング検査の試薬として現在も使用されています。この検査は当院検査部でも測定を行っていますが、新鮮な血小板が必要なために採血後4時間以内に測定しなければならないことなど様々な制約がある特殊な検査となっています。

本来の目的では日の目を見なかったリストセチンですが、適材適所、物は使いようといいますか、その特性があったからこそ検査の世界で活躍しています。ひとつの事柄を様々な視点から見ることの大切さを感じる一例ではないでしょうか。

Vol.58, 2018.01

血液検査室 安井優太郎

参考資料

  1. 一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集
  2. 「Ristocetin」 日本臨牀 39(12): 3643-3646,1981
  3. 「血小板検査ハンドブック」 ベックマンコールター株式会社