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大人の白血病?成人T細胞白血病のお話

みなさんはHTLV-Ⅰ抗体という検査項目を聞いたことがあるでしょうか?
そんな検査知らないし、見たこともない!という方がほとんどかと思いますが平成23年度から妊婦検診で実施されている検査項目の一つです。
HTLV-Ⅰ抗体という検査は成人T細胞白血病(ATL)という疾患を調べるための検査です。白血病という名前がついていますが、血液のガンといわれている白血病とはちょっと違う病気です。

血液のガンといわれる白血病というのは血液細胞が腫瘍化し増殖する疾患で、主に遺伝子異常が原因となっています。それに対し成人T細胞白血病はウイルスが原因となり、異常細胞が増殖していく疾患です。ではなぜ「白血病」という名前がついているのでしょうか?この病気は1976年に高月らによって発見され、大人のみに発症する=「成人」、白血病と同じように細胞が異常増殖し、その細胞がリンパ球の「T細胞」であるということから、「成人T細胞白血病」と名付けられ、当時は白血病の一種類と考えられていたようです。その後、様々な研究が行われ、この疾患はHTLV-Ⅰというウイルスが原因となっていることが明らかになりました。

このHTLV-Ⅰウイルスはヒトのリンパ球のT細胞に感染します。しかし感染後すぐに発症することはなく、40年~60年もの間潜伏してから発症します。多くの人は発症することなく、ウイルスに感染しただけの状態=キャリアのまま生涯を終えますが、この長い潜伏期間が大人(成人)にのみ発症すると考えられていた謂れです。全世界では約500万~2000万、日本では九州・沖縄地方を中心に約110万人のキャリアが存在し、そこから発症するのは40歳以降、60歳前後に多く、3~5%と推定されています。
発症した場合、異常なT細胞が増殖し、リンパ節腫脹・肝脾腫・皮膚紅斑・皮下腫瘤・免疫力低下による感染症など、様々な症状を呈し、血液中には花びらのような形をした特徴的な形態をもつ「フラワーセル」(写真①)と呼ばれる異常リンパ球が見られることもあり、補助診断の一つとなります。このように異常な血液細胞が増殖するという特徴が白血病と同じように捉えられていたのでしょう。

この病気の主な感染経路は母乳・輸血・性交の3つで、ウイルスに感染しているかどうかを判断するためには原因となるHTLV-Ⅰウイルスに対する抗体=HTLV-Ⅰ抗体を測定します。主な感染経路は母乳を介した母子感染のため、現在は妊娠30週までにHTLV-Ⅰ抗体の検査をすることが推奨されており、母乳感染を防いでいます。また、輸血による感染を防ぐためには、1986年以降、血液製剤に対してHTLV-Ⅰ抗体の測定が開始されています。

HTLV-Ⅰ抗体検査のように妊婦検診や献血後など、ごく身近に私たちの知らない検査が存在し、みなさんの健康や予防医学の一端を担っているのです。

Vol.59, 2018.02

血液検査室 青砥 彩

参考資料

  1. 病気がみえる vol.5 血液
  2. 日本検査血液学会誌第18巻第1号 2017年「ATL診療の最前線と未来」
  3. 国立がん研究センターがん情報サービス
    https://ganjoho.jp/public/cancer/ATL/index.html
写真①  右:通常リンパ球 左:フラワーセル
写真①  右:通常リンパ球 左:フラワーセル