検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

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AICS®って知っていますか?

尿1滴でがん種を特定!!
昨年そんな驚きの文字を目にしました。
これは日立とHIROTSUバイオサイエンス社が線虫によるがん検査の実用化に向けた共同研究に合意したというニュースの見出しでした。C.elegansという線虫(寄生虫の一種)の匂いに対する走性行動を応用してがんのスクリーニング検査を行うというセンセーショナルなニュースでした。
ほかにも、血液1滴から13種のがんをごく早期に発見するという研究も、国家プロジェクトとして話題になっています。こちらは、血液中に流れるがん細胞が出す特殊な成分(マイクロRNA)を分析することにより、がんの早期診断が可能になるという研究です。

日本人の国民病の1つと言われているがんは、1981年から日本人の死因第1位です。日本人の2人に1人はがんを経験し、3人に1人はがんが原因で亡くなっています。
がんには「不治の病」のイメージが色濃く残っていますが、医療の発展に伴い、早期発見・早期治療により治らない病ではなくなっています。そのため、がんの検診率をあげることがより重要となってきています。
しかしながら、日本のがん検診の受診率は先進国の中でも圧倒的に低い水準を示しています。検診受診率があがらない理由は、時間がない、費用が高い等さまざまだと思いますが、実際にどのような検査が行われているのかあまり知られていないことも大きな要因となっていると考えられます。

がんの検査は腫瘍マーカーの検査や、バリウム検査、X線検査など様々ですが、いわゆる対策型検診であり、多くが1種類の検査に1種類の特定のがんを対象としているため、1つの検査で複数のがんを検査することが難しいのが現状です。
先述した血液から13種のがんの早期診断を行う研究は、3年後の実用化を目指している段階で、線虫を用いたがんのスクリーニング検査もまだ実用化には至っていません。

そこで現在行えるがんのスクリーニング検査として、AICS®(アミノインデックスがんリスクスクリーニング®)という検査があります。
血液中のアミノ酸の濃度バランスの変動を統計学的に解析・指標化し、がん罹患リスクの予測を行うものです。健康な人のアミノ酸濃度はそれぞれ一定になるようにコントロールされているため、このアミノ酸濃度のバランスの変化を調べることにより、現在のがんのリスクをランク別に評価します。
検査に必要な採血量は5mLと少なく、採血以外での侵襲性や、長時間の拘束はありません。
対象は、健常者(妊娠されている方は対象外とする)で、男性は25~90歳(胃がん、肺がん、大腸がん、膵臓がん、前立腺がんの5種)、女性では20歳~90歳(胃がん、肺がん、大腸がん、膵臓がん、子宮がん、卵巣がんの6種)と、がん種別に評価対象年齢が定められています。
結果はランクA、B、Cの3段階で評価され、それぞれAICS®値が0.0~4.9、5.0~7.9、8.0~10.0となっており、AICS®値が高いほど(つまり、ランクAよりランクCの方が)がんであるリスクは高いと評価されます。
実際にAICS®でランクCという結果を受けて精密検査をした結果、早期に癌が見つかり、早期治療を行えた例も報告されています。

AICS®はリスク評価として用いるため、がんであるかを確定するものではなく、臨床的な判断には他の検査との併用が必要となります。
当院では、PET-CTや腫瘍マーカーの検査とAICS®を組み合わせた「PET-CTドック」を行っています。このように、いくつかの検査を組み合わせることでより精度の高い結果を得られます。

がんは、なによりも早期発見、そして早期の治療開始が重要です。
そのためには、身体に自覚するほどの症状が現れてからではなく、定期的に医療機関にてドック等で身体の状態をチェックすることが大切です。
まずは、検診を受けてみる、その一歩が大きな一歩です。

Vol.63, 2018.06

一般検査室 蒲生夏美

参考文献

新規がん検診としてのアミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)の有用性に関する検討 第三報 人間ドック31:681-688,2017

アミノインデックスがんリスクスクリーニングを契機に発見された早期乳癌の一例 日本がん検診・診断学会誌 Vol.24 №2 2017

東邦大学医療センター大森病院HP「PET-CTドックのご案内」

臨床アミノ酸研究会HP「AICS(アミノインデックスがんスクリーニング)とは?」

厚生労働省 国民生活基礎調査