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首都圏で大流行!『風疹』

風疹の流行

2018年9月1日現在、首都圏を中心とした関東近郊で風疹の大流行が起こっています。その数は昨年度から比較して、およそ三倍にも上っています。特に1977-1994年度の男子中学生で風疹の定期予防接種を受けていない30~50歳前半の男性における報告事例が多く認められています。

病原体

風疹とは世界中で見られる感染症であり、トガウイルス科(Toga virus family)、ルビウイルス属(Rubi virus genus)に属する風疹ウイルス(Rubella virus)によって引き起こされます。『rubella』とは『赤みがかった』を意味するラテン語に由来しており、風疹に感染すると初期症状として赤い発疹を呈します。風疹ウイルスは上気道と周囲のリンパ節に感染・増殖した後、血流に運ばれて全身に感染を拡大していきます。感染した人の鼻や喉の分泌物に含まれ、風疹感染者の咳などの飛沫にのって他の人に感染していきます。手指を介して感染することもありますが、多くは上気道粘膜より排泄される風疹ウイルスを含む飛沫を吸い込むことによって感染していきます(飛沫感染)。

症状・合併症

風疹の潜伏期はおよそ2-3週間で、主な症状として発疹、発熱、リンパ節の腫脹が認められます。感染者の15-30%は症状が出現しにくく、感染しているが症状が出ない、いわゆる不顕性感染で終わることもあります。また、風疹は典型的な症状を示さない事も多く、感染者自身が風疹に感染したことに気づかず、知らない間に他の人に感染を拡大させていたというケースもあります。子供では、比較的症状が軽いと言われていますが、まれに脳炎など重篤な合併症を引き起こす事が報告されています。また、大人が風疹に罹患すると、発熱や発疹期間が子供と比較した場合長く、より重症となることも知られています。
『先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)』が風疹の有名な合併症としてあります。これは妊娠中の母親が風疹に罹患することで、母体内の胎児にも風疹ウイルスが感染し、難聴、目の障害、心臓奇形や神経学的な異常などを呈する合併症です。特に妊娠初期に母親が風疹に感染すると、胎児の死、死産、児の奇形などの異常を起こす可能性が高まります。

予防するには

予防法は風疹ウイルスに対するワクチンを接種し、体内で風疹に対する抗体を作る免疫を獲得させることです。しかし、非典型的な症状を多く認める風疹では、自分自身が過去に風疹の既往があるか分かりにくいという問題があります。その為、自分自身が風疹の抗体を持っているか分からない方も多いと思います。妊娠中に風疹ワクチンを接種したことによるCRSは報告されていませんが、妊娠してから風疹ワクチンの接種はできないので、妊娠が判明する前に風疹のワクチンを接種しなければなりません。仮に妊婦検診で風疹抗体価が低いことが分かった場合は、次の妊娠に備えて、出産後に早めにワクチンを接種することが推奨されています。このような背景の中で、自治体によっては、特定の条件を満たしている方を対象に、風疹抗体検査や風疹のワクチン接種に対する助成を定めている場合があります。特に妊娠を希望している女性とそのパートナーの方は、自身が所属する自治体や保健所に風疹検査とワクチン接種について確認することをおすすめします。各自治体のホームページ上に詳細が記載されています。

風疹ワクチンと聞くと女性の問題と思われがちですが、風疹の抗体を持っていない男性が風疹に感染することで、知らない間に周囲に風疹ウイルスを広めてしまいます。自分だけでなく、家族や新しく生まれてくる命、周囲のコミュニティーを風疹から守るためにも男性の風疹ワクチン接種も重要ですね。

Vol.66, 2018.09

微生物検査室 山田景土

参考文献