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妊娠検査薬で妊娠判定が出来るのはなぜ? —hCGについて—

妊娠しているかどうか一刻も早く知りたいとき、市販の妊娠検査薬で確認される方も多いのではないでしょうか。しかし市販の妊娠検査薬は簡単に検査できる反面、検査の時期や体調などによって正しい結果が得られない事もあります。そこで今回は、なぜ妊娠判定が出来るのかも含め妊娠検査薬に使用されているhCGについてお話したいと思います。

妊娠検査薬は、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin : hCG)という物質を検出しています。hCGとはαとβの2つのサブユニットからなる糖蛋白質ホルモンです。このホルモンは、受精卵が着床して直ぐに妊娠絨毛の栄養細胞で産生され、黄体を刺激しプロゲステロンというホルモンの産生を促し、妊娠6~8週までの妊娠維持に促進的に働きます。通常、妊娠中にのみ著しく産生されるため、尿中のhCGを検出する事で妊娠を早く知る事が出来ます。現在、市販されている妊娠検査薬の測定原理には、イムノクロマト法という抗原抗体反応を利用した方法が用いられています。

次に、この方法について簡単に説明します(図.1)。まず、妊娠検査薬の構造は①採尿部②判定ライン③コントロールラインの3つに分けられます。①採尿部で、赤色に発色する物質(赤いしるし)がついた抗体Aと尿中hCGが結合します。②抗体Aと結合した尿中hCGを可視化するために判定ラインとなるところには、尿中hCGと結合できる抗体Bが固定されており、ここで尿中hCGがトラップされます。このとき、採尿部でついた赤いしるしが集まって赤色のラインに見えることになります。③コントロールラインには、hCGが固相化されており、尿中hCGと結合していない抗体Aが結合するので、判定ライン同様に赤色のラインが発現します。つまり、イムノクロマト法は抗原抗体反応の可視化による尿中hCGの有無が判定できます。したがって、尿中にhCGが存在する場合は、判定ラインとコントロールライン2本のラインが発現し、陽性と判定します。存在しない場合は、コントロールラインでのみ1本のラインが発現し、陰性と判定されます。このように、市販検査薬は尿中hCGの有無で妊娠を判定しますが、尿中hCGが存在していてもその濃度が低い場合は、偽陰性となる可能性があります。現在の市販検査薬の検出できる濃度は25~50 IU/Lですので、尿中hCGがこの濃度より低くければ陰性と判定されることになります。例えば、検体が尿である性質上、水分を多く取り過ぎていると尿中hCGの濃度が低くなり、偽陰性となってしまう事もあるため、注意が必要です。また、尿中hCG値は妊娠週数によって違いがあるため、いつ検査をするのかも重要です。尿中hCGは5~6週後に急速に上昇して8~12週で100,000~200,000 IU/Lとなり、その後下降して20週~分娩まで最高50,000 IU/L程度の高値を維持します。妊娠10日後には、市販薬の検出感度(25~50 IU/L)以上の濃度になり、陽性化しますが、市販薬の陽性率は妊娠3週で85.7%、妊娠4週で100%であるという報告があるため、正確な検査を行うには、妊娠4週(最終月経初日から28~34日目)以降に行うのが望ましいとされています。市販検査薬は、手軽に購入でき、簡便に検査が出来ますが、以上のような検査上の性質や検査結果の意味を理解して利用することが大切です。
図1.妊娠検査薬の測定原理(イムノクロマト法)
病院では、経腟超音波検査によって子宮内に胎嚢(赤ちゃんを包む袋)を証明し、正常妊娠の診断を行えるので、市販検査薬で陽性判定されたら大切な赤ちゃんと母体の為に出来るだけ早期に病院を受診することをお勧めします。胎嚢が確認できるのは妊娠4週後半~5週頃になりますので、その頃に病院に行くとよいでしょう。

妊娠を判断するだけでなく、hCGは血中の濃度を定期的に測定する事により子宮外妊娠や流産の危険性を知らせる指標や、ダウン症候群の出生前診断にも重要な役割を果たしています。その他、絨毛性疾患(胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛癌など)に対する腫瘍マーカーとしても利用されています。以下に、詳細について説明します。

1.異常妊娠(子宮外妊娠、流産)の診断

子宮外妊娠は、赤ちゃんを育てる子宮以外のところ(主に卵管)で着床し妊娠してしまうことです。全妊娠の約1~2%の確率で起こるとされています。子宮外妊娠の初期は無症状なことが多いため、妊娠検査薬で陽性が出て安心し、病院の受診を遅らせてしまい、そのまま子宮外で赤ちゃんが成長することにより卵管破裂を起こして母体の生命に関わるケースも多く大変危険です。病院では経腟超音波検査によって胎囊を確認しますが、経過観察時に胎囊が見えないまま血中hCGの値が高くなっていった場合、子宮外妊娠の可能性が高いと予測されます。また、胎囊が見えず、血中hCGの値が極端に低い場合は流産が疑われます。

2.出生前診断

母体血清マーカー検査として、hCGを含めた4つの成分(血中αフェトプロテイン、非抱合型エストリオール、inhibin A)を測定し、胎児のダウン症候群などの確率を検出するクアトロテストという検査があります。通常、hCGは速やかに腎臓より尿中に排泄されるため、血中には微量に存在するにすぎないのですが、ダウン症候群では、hCGの糖鎖異常により血中半減期が延長するために血中のhCG値が上昇することを利用しています。

3.腫瘍マーカーとしての利用

絨毛性疾患とは、妊娠時の胎盤をつくる絨毛細胞から発生する病気の総称で、大きく分けると胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛癌の3つがあります。血中または尿中のhCGはこれらの疾患で正常妊娠時よりもさらに高値(500,000~1,000,000 mIU / L)を示すため、腫瘍マーカーとして利用され、治療やフォローアップにまで役立ちます。また、絨毛性疾患以外の腫瘍においてhCGが発現する頻度は極めて低いのですが、子宮、卵巣、肺、消化管、泌尿器系の悪性腫瘍において異所性発現している例も報告されています。

以上のようにhCGという1つの検査項目にも複数の臨床的意義があり、臨床に応用されています。今後、妊娠検査薬の精度はどんどん上がっていくかもしれません。しかし、妊娠時の自己判断は大変危険です。正しい診断、治療を受けるためにも、身近で親身に対応してくれる病院の受診をお勧めします。

Vol.67, 2018.10

免疫検査室 兒玉奈菜江

参考文献

「特集:胎盤のバイオマーカー 4.hCG・hPL」産科と婦人科.82(9):980-985.2015.

「特集:第55回POCセミナー:ここまで出来る・イムノアッセイ法を用いたPOCT—POCTはイムノアッセイ法で進化する—3.意外に知らないhCGの話~hCGのことホントにわかっていますか?~」機器・試薬.39(1):10-16.2016.

「婦人科悪性腫瘍患者における尿中hCGβ-core fragment測定の臨床的意義」産科と婦人科.58:1197-1208.1991.

「子宮体がん治療ガイドライン2013年版」日本婦人科腫瘍学会

「高感度hCG検出キット、HCGテストパック・プラスの基礎的検討と臨床応用」産科と婦人科.58:1413-1421.1991.

「最新尿検査—その知識と病態の考え方—」2014.

「講義録 産科婦人科学」2010.