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「いつのまに!!」 あなたの骨は大丈夫ですか?

みなさんは「いつのまにか骨折」という言葉をご存知ですか。女優の桃井かおりさんが出演するテレビCMで一躍脚光を浴びました。「いつのまにか骨折」とは骨粗鬆症により、ふとしたことをきっかけに身に覚えがないまま、骨折をしてしまうものです。骨粗鬆症は総人口の10%、1000万人程度いると推定されており、非常に多くの人が罹患する可能性のある疾患となっています。今回のコラムでは骨粗鬆症をテーマにお話ししていきたいと思います。


骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義されています。骨粗鬆症は原発性と続発性があり、原発性は遺伝的素因と加齢に無理なダイエット・栄養の偏りや運動不足などの生活習慣が加わった複合的な他因子疾患です。一方、続発性は別の疾患の影響で骨密度が低下し骨粗鬆症を発症するものをいいます。今回はこれらの中でも原発性骨粗鬆症の原因となる、生活習慣による影響を中心にみていきたいと思います。


みなさんご存知の通り、カルシウムは骨の健康に重要な栄養素です。カルシウムは生体内におよそ1kg存在し、そのほとんどが骨や歯などの硬組織に存在します。血液中にも10mg/dL程度存在し、細胞の分裂や筋肉の収縮、神経興奮の抑制、血液凝固など骨の形成以外にもたくさんの役割を果たしています。カルシウムは牛乳・乳製品、骨まで食べることのできる小魚、大豆・大豆製品、葉物野菜などに多く含まれており、これらの食品を摂取することが骨の健康を維持するために不可欠です。しかしカルシウムだけを多く摂取すれば骨の健康が維持されるというわけではなく、そこには多くの栄養素が関わっており、特にカルシウムの小腸からの吸収を促進するビタミンDや吸収されたカルシウムが骨に取り込まれることを促進するビタミンKなどの摂取が非常に重要になってきます。ビタミンDは魚類、ビタミンKは納豆や葉物野菜に多く含まれています。ビタミンDは紫外線を浴びることによっても皮膚から生合成され、カルシウムの吸収を促進します。現在の日本では若い世代ほど家庭での魚の購入量が減少しており、ビタミンDの摂取量が減少傾向にあります。また若い女性を中心に過度の紫外線対策によって、ビタミンD量が不足している人が多いことが危惧されています。これらのビタミン摂取・生合成が減少するとカルシウムの吸収、骨への取り込みがうまくいかず、カルシウムを摂取しても効率的に利用することができないため、将来的に骨粗鬆症を引き起こす原因となってしまいます。また、骨は負荷がかかるほど、骨を形成する細胞が活発に活動するため、家にこもりがちで外出する機会が少ない人や体を動かす機会が少ない人はリスクが高まります。


コラムを読んでくださっている皆様の中で、次の3つの質問のうち当てはまるものはあるでしょうか。①以前より身長が小さくなった②背中や腰が曲がってきた③背中や腰に痛みを感じる。このうち、一つでも当てはまる項目があった場合は骨粗鬆症の可能性があるため、お近くの医療機関を受診することが望まれます。骨粗鬆症の診断の手順はまず問診、画像診断、血液・尿検査、次いで骨の評価のために骨密度の測定、脊椎のレントゲン検査を行い、原発性骨粗鬆症と鑑別すべき疾患の可能性を否定します。次に脆弱性骨折の有無と骨密度の数値をもとに原発性骨粗鬆症を診断します。骨密度は骨の強さを判定する重要な指標で、骨の中にカルシウムなどのミネラルがどの程度存在するのかを表します。レントゲン検査では主に背骨の骨折や変形の有無、骨のスカスカ具合を確認します。また、血液・尿検査では一般的に行われる生化学検査や血算・凝固検査、尿定性・沈査検査に加え骨代謝マーカーを測定し、骨粗鬆症との鑑別診断に用いられるほか、骨粗鬆症の治療薬の選択や治療効果判定にも使用されます。


骨粗鬆症と診断されたら、薬物治療を中心に行っていきます。治療薬の種類としては骨の分解を抑制する薬、骨の形成を促進する薬、カルシウム製剤、女性ホルモン製剤などがあります。これらの治療薬の中から患者さんそれぞれに適した治療薬を選択して使用していきます。また、治療薬のみに頼るのではなく食事療法や運動療法が必要となります。食事療法は先に述べたカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどを積極的に摂取していくことが重要です。治療のためには1日に700~800mgのカルシウム摂取が勧められています。 そこにビタミンDやビタミンKも摂取することで効果が高まります。運動療法の主な目的は骨密度の上昇、背筋強化、転倒予防などにより骨折を予防することです。骨密度を上昇させるための有酸素荷重運動・筋力訓練、椎体骨折を予防するための背筋強化訓練、転倒を予防するための筋力訓練・バランス訓練などを実施します。骨粗鬆症の早期発見、早期治療介入することは将来の更なる骨折の予防に繋がります。例えば、脊椎の椎体骨折では10人中6人は激しい痛みを伴わず、気が付かないまま1つ目の骨折を放置すると、5人に1人は1年以内に別の部位に骨折を起こすと言われています。そのため骨粗鬆症ではこの骨折の連鎖を止めることも患者さんの生活の質を維持するために重要です。


骨粗鬆症は合併症である骨折による疼痛や身体支持機能の低下、それに引き続く運動機能障害による生活機能障害が問題となります。厚生労働省の要介護の原因調査では脳卒中、老衰に次いで骨粗鬆症が第3位となっています。日本人の平均寿命は世界的にみてもトップクラスですが、介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を示す健康寿命は平均寿命よりも10年程度短く、骨粗鬆症がその一因となっていることがわかっています。


骨の健康を維持するためには前述したようにカルシウムだけではなくはビタミンD、ビタミンKを中心に多くの栄養素を含むバランスのよい食事をとることが基本になります。特に成長期は骨にカルシウムを蓄える大事な時期であるため、この時期にしっかり栄養をとり、運動を行うことで丈夫な骨が形成され、将来的に骨粗鬆症になるリスクを下げることができます。加齢に伴い、カルシウムの腸からの吸収は悪くなり、食べる量も減っていくため高齢の方では食事内容を意識する必要があります。また、屋外に出て適度に運動をすることによって骨を強く保つことも重要です。長く健康でいるために今一度ご自身の生活を見直してみてはいかがでしょうか。

Vol. 68, 2018. 11

血液検査室 大竹洋輔

参考文献

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版

臨床検査学講座 臨床化学検査学 医師薬出版株式会社 第3版

水産庁 水産物の消費動向

骨粗しょう症による「いつのまにか骨折」

厚生労働省 平成25年国民生活基礎調査