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寒いと赤血球が凝集する? —寒冷凝集素—

「自己免疫疾患」という疾患をご存知でしょうか。抗体は異物(抗原)と特異的に結合する蛋白質で、抗原と抗体が結合することによってマクロファージや好中球が異物を排除し、生体防御を行っています。通常、抗体は抗原に対して産生されますが、本来抗原とは認識されないはずの自己の組織に対して抗体が産生される場合があり、これを自己抗体と呼びます。自己抗体により組織が障害を受けて生じる疾患が「自己免疫疾患」です。自己免疫疾患には膠原病など様々な疾患がありますが、赤血球に反応する自己抗体によって溶血性貧血(破壊など様々な原因により赤血球寿命が短縮した状態)をきたす疾患を自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼びます。自己抗体と赤血球が最もよく結合する温度によって温式と冷式に分類されています。今回は末梢血液像の鏡検中にしばしば遭遇する、冷式AIHAの原因とされる「寒冷凝集素」についてお話します。

寒冷凝集素は低温下において高い活性を示します。寒冷凝集素の存在下で体が寒冷にさらされると、赤血球膜上の抗原と自己抗体である寒冷凝集素が結合し、赤血球が凝集します。このとき、免疫機構に関わる蛋白質である補体も結合します。寒冷凝集素の凝集は可逆的であるため、37度付近に温まると活性が低下し、寒冷凝集素が赤血球から離れていき、補体だけが赤血球膜上に残ります。補体が結合した赤血球が血管外(脾臓や肝臓)でマクロファージなどの細胞に貪食され破壊されます。また、補体活性化により血管内で赤血球が破壊されます。このようにして赤血球が溶血し、貧血をきたすのです。なお寒冷凝集素が発生する原因の詳細は不明な部分が多いのが現状です。

①②
③④⑤

赤血球の凝集は、末梢血液標本の鏡検にて、赤血球の凝集は下図のように観察することが出来ます。
観察中にこのような所見が見られた場合は血球分類の報告に加えて「赤血球凝集(+)」とコメントしています。

赤血球凝集

溶血性貧血の症状に加え、寒冷凝集素によってできた赤血球凝集塊により末梢循環障害を起こし、手指や足の痛みと変色(肢端チアノーゼ)や感覚障害を起こす疾患を寒冷凝集素症(CAD)と呼びます。寒冷凝集素症には、原因不明で起こる特発性のものと、基礎疾患による免疫異常の結果起こる続発性のものがあります。続発性の基礎疾患としてマイコプラズマ肺炎、伝染性単核球症(EBウイルス感染)などの感染症や、リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)、慢性リンパ性白血病(CLL)などの血液疾患がよく知られています。CADの根本的治療はなく、寒冷を避け十分に保温を行うことが重要とされています。感染に続発するCADは2~3週間で消退し、予後良好であるといわれています。

赤血球凝集が存在したまま検査を実施すると、赤血球数など一部の検査値に影響する場合があるので、37℃に温めてから検査するなどの対処をしています。この赤血球凝集の所見が診断のヒントになることがあります。例えば、肺炎は原因菌によって感受性を示す薬剤が異なるため、なるべく迅速に原因菌を突き止めて治療に臨まなければなりませんが、レントゲン検査で肺炎像を認め、末梢血液像で赤血球凝集を認められることがあれば、前述したマイコプラズマ肺炎が疑われることになります。末梢血液像は採血後約1時間程度で鏡検が可能となるため迅速に情報提供することができます。

 

季節は春になり、だいぶ暖かくなってまいりましたが、それでも赤血球凝集が認められる場合があります。それは採血後、血液が採血管の中で体温よりも低い環境になるからです。赤血球凝集は貴重な情報なので、季節に関係なく鏡検で見逃さないように注意深く観察しています。

Vol. 71, 2019. 3

血液検査室 田中詩帆

参考文献

病気がみえる Vol.5 血液  メディックメディア

血液検査技術教本 丸善出版

検査と技術 血液形態アトラス 医学書院

検査と技術 免疫反応と臨床検査2010 医学書院