検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
曲がった細菌と胃腸炎
焼き鳥× Beer vs カンピロバクター
暖かくなってくると、焼き鳥と冷えたビール で仕事の疲れを吹き飛ばしたい、そう思う成人の方は多いのではないでしょうか。明日への活力にとても重要なことだと思います。もちろん飲みすぎには要注意です。しかし、そんな時に注意しなければならないのが、カンピロバクターなのです。
カンピロバクターとは?
カンピロバクター(Campylobacter spp. )は、ヒトが食用とするトリ、ブタ、ウシ等をはじめ、多くの家禽類の消化管に広く生息する細菌です。ギリシャ語の「曲がった」とラテン語の「細菌」を合わせた「曲がった細菌」が名前の由来となっています。その名の示す通り、カンピロバクターは湾曲した形態を示します。このカンピロバクターはヒトの腸管に入り込むと、下痢、嘔吐、発熱といった、いわゆる食中毒を引き起こします 。中には、特徴的な症状を認めず、腹部の違和感や発熱だけで終わる症例もあります。厚生労働省の統計では、細菌性の食中毒の中で、原因細菌としてもっとも報告が多いのがカンピロバクターとなっています。
感染経路は汚染食品の経口摂取によるもので、特に鶏肉の汚染率は高く、およそ8割の鶏肉がカンピロバクターで汚染されていると言われています。カンピロバクターの感染成立菌数はおよそ100個と言われており、非常に少ない菌数で感染が成立します。また、潜伏期間は、2-7日間と比較的長いことも知られています。多くは加熱不十分な食肉を摂取することで感染・発症します。特に、汚染頻度の高い鶏肉で火の通りが不十分な場合にカンピロバクターに感染し易いのですが、焼き鳥などでも中まで火が通っていれば問題ありません。カンピロバクター以外の細菌性胃腸炎もしっかりと火を通すことで、その大部分を予防することが出来ます。
これまでのカンピロバクター腸炎の報告を見ると、食品、特に鶏肉に関連するものが大多数を占めていますが、中には農場を訪れた後の感染、ペットからの感染なども報告されています1)。これらの報告は、動物に関連するあらゆる物がカンピロバクターの感染源になると同時に、動物に接触した後の手指も感染源になり得る事を示しています。ただし、これらに関連する胃腸炎が全てカンピロバクターによるものではないので、医療機関を受診し精査することが重要です。
カンピロバクターの検査は、糞便の培養検査で行います。特殊な選択培地と培養条件で、多数の腸内細菌の中から病原性のあるカンピロバクターを検出します。
カンピロバクター感染症の合併症として代表的なものとして、自己免疫疾患のギランバレー症候群があります。ギランバレー症候群になると、本来カンピロバクターに作用するはずの抗体がヒトの運動神経伝達に作用し、その結果として運動障害を引き起こします。ギランバレー症候群は、原因がカンピロバクターだけではなく、未だ解明されていない事が多くあります。ギランバレー症候群を罹患したおよそ8割の方が、発症以前の筋力に戻るといわれています。稀に人工呼吸器管理など重症化する場合もありますが、多くは治療によって改善が期待されます。
感染経路は汚染食品の経口摂取によるもので、特に鶏肉の汚染率は高く、およそ8割の鶏肉がカンピロバクターで汚染されていると言われています。カンピロバクターの感染成立菌数はおよそ100個と言われており、非常に少ない菌数で感染が成立します。また、潜伏期間は、2-7日間と比較的長いことも知られています。多くは加熱不十分な食肉を摂取することで感染・発症します。特に、汚染頻度の高い鶏肉で火の通りが不十分な場合にカンピロバクターに感染し易いのですが、焼き鳥などでも中まで火が通っていれば問題ありません。カンピロバクター以外の細菌性胃腸炎もしっかりと火を通すことで、その大部分を予防することが出来ます。
これまでのカンピロバクター腸炎の報告を見ると、食品、特に鶏肉に関連するものが大多数を占めていますが、中には農場を訪れた後の感染、ペットからの感染なども報告されています1)。これらの報告は、動物に関連するあらゆる物がカンピロバクターの感染源になると同時に、動物に接触した後の手指も感染源になり得る事を示しています。ただし、これらに関連する胃腸炎が全てカンピロバクターによるものではないので、医療機関を受診し精査することが重要です。
カンピロバクターの検査は、糞便の培養検査で行います。特殊な選択培地と培養条件で、多数の腸内細菌の中から病原性のあるカンピロバクターを検出します。
カンピロバクター感染症の合併症として代表的なものとして、自己免疫疾患のギランバレー症候群があります。ギランバレー症候群になると、本来カンピロバクターに作用するはずの抗体がヒトの運動神経伝達に作用し、その結果として運動障害を引き起こします。ギランバレー症候群は、原因がカンピロバクターだけではなく、未だ解明されていない事が多くあります。ギランバレー症候群を罹患したおよそ8割の方が、発症以前の筋力に戻るといわれています。稀に人工呼吸器管理など重症化する場合もありますが、多くは治療によって改善が期待されます。
カンピロバクターと薬剤耐性
現在、世界中で抗菌薬に耐性を獲得した細菌に対する関心が高まっています。カンピロバクターの薬剤耐性化も世界的に重要な問題として、米国疾病予防管理センター(CDC)でも警告を出しています。特に様々な感染症の治療に使用される「キノロン」と呼ばれる抗菌薬への耐性が問題視されています。これまでの報告をみると、本邦におけるカンピロバクターの薬剤感受性成績は、キノロン系抗菌薬に対する耐性率が年々増加しています2),3)。また、キノロン系抗菌薬に耐性を獲得した本邦独自の流行菌株の存在も示唆されています2),3)。今後も薬剤耐性化の問題は深刻化していくことが予想されますが、カンピロバクター腸炎で抗菌薬療法が必要となった場合には、キノロン系抗菌薬以外の抗菌薬が選択肢として残されています(一般的な胃腸炎では重症例を除き積極的に抗菌薬療法を行わない事も多くあります)。
おわりに
カンピロバクター腸炎は近年もっとも一般的な食中毒になっています。カンピロバクターを含めた食物由来の食中毒を予防するためには、食肉はしっかり火を通し 、加熱不十分な食肉の摂取を控える事、そして手洗いをしっかり行うことが重要です。
Vol. 72, 2019. 4
微生物検査室 山田景土
参考文献
1)Kaakoush, N. O et al. Clin Microbiol Rev 2015;28:687-720.
2)Asakura, H et al. J Appl Microbiol 2013;114:1529-38.
3)Yamada K et al. J Glob Antimicrob Resist 2019 (In press)
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