検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
 
コラム ~検査にまつわるお話です~
基準範囲一覧
東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部 関連リンク

【お問い合わせ先】

東邦大学医療センター
大森病院 臨床検査部

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)

“がん”とは・・・ -がん検査と近い未来-

厚生労働省は、平成30年9月7日に国内の出生・死亡・婚姻・離婚および死産について「平成29年(2017)人口動態統計」を発表しました。それによると、男女を合わせた国内の死亡原因1位は「悪性新生物(がん)」で、次いで「心疾患(心臓)」、「脳血管疾患」、「老衰」、「肺炎」となっており、男性では死亡総数の27.9%、女性では23.5%が“がん”で亡くなっていることが分かります。また年次推移をみると、“がん”は一貫して増加しており、昭和56年(1981年)に死因第1位となって以降、現在までその順位は変わっていません。しかし、「心疾患」は「心臓」、「脳血管疾患」は「脳」と疾患のある臓器が特定できる一方、“がん“という言葉だけではどの臓器が悪いのか知ることが出来ません。では、どのような“がん”が存在するのでしょうか。

そもそも“がん”とは、遺伝子変異によって自律的かつ無秩序に増殖を行うようになった細胞集団(=腫瘍)の中で、周囲の細胞に浸潤し、転移増殖を繰り返すものを指し、上記のように悪性新生物や悪性腫瘍とも呼ばれます。がんの種類は発生部位によって異なり、脳腫瘍の頭部から甲状腺がん等の頭頸部、肺がんや乳がん等の胸部、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、胃がんや大腸がん等の消化器、前立腺がん等の泌尿器、子宮頸がんや卵巣がん等の女性特有がん、白血病や悪性リンパ腫等の血液・リンパがん、皮膚がんやメラノーマ等の全身性がんが存在し、実に30種以上も存在します。中でも肺や大腸、胃、膵臓、肝臓のがんは2017年における国内部位別がん死亡率で上位となっています。

がんに関する検査は、免疫検査・エコー検査・レントゲン検査・CT・MRI・PET(陽電子放出断層撮影)・内視鏡検査・病理検査と様々な検査があり、当院ではこれらの検査を各部門で実施しています。

臨床検査部では、即日検査結果が分かる免疫検査のひとつである「腫瘍マーカー」の測定を行っています。腫瘍マーカーとは、がんの存在下で血液中や尿中に増加する蛋白質等の物質のことをいい、健常人ではほとんど見られません。前述したように、がんの種類が多く存在するのと同様に、腫瘍マーカーも数多く存在します。場合によっては、ひとつのがんで複数の腫瘍マーカーが上昇することもあり、それらを組み合わせて検査することがあります(コンビネーションアッセイ)(図1)。

図1:各がん種と腫瘍マーカー
がん治療.comより引用 腫瘍マーカー
https://www.ganchiryo.com/prevention/tumor_marker.php(2019年4月閲覧)

腫瘍マーカー検査は血液で実施出来るため、がん細胞を内視鏡下で直接採取するような生検と比較すると、採血だけなので侵襲性が小さい検査です。しかしこの検査の欠点として、「腫瘍マーカーの上昇」=「がんの存在」とは必ずしも言えない点が挙げられます。なぜなら、良性腫瘍や慢性肝障害、腎障害、呼吸器の慢性炎症、高血糖などの疾患でも上昇してしまうことがあり、感度が100%ではないからです。そのため、がんの確定診断には画像検査や病理検査が重要であり、腫瘍マーカーは補助的な役割となっています。そのため、治療効果の判定や再発・転移の有無などの経過観察に、この検査が多用されます。

近年、がんに関する検査で注目されてきているのが「がん遺伝子検査」です。正常細胞の遺伝子には、細胞の増殖や生死に関わる蛋白質を作っているものがあり、その遺伝子が変異することによりがん細胞が発生します。この遺伝子変異の有無を調べるのが、がん遺伝子検査です。がん遺伝子検査を行うことで、一部の血液がん(慢性骨髄性白血病)の確定診断や、抗がん剤に代わる新たな薬として注目されている「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」が使用出来るか判定することが可能となります(図2)。

図2:がん遺伝子検査
国立がん研究センター がん情報サービス「がん医療における遺伝子検査
もっと詳しく知りたい方へ」より引用
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/gentest02.html
免疫チェックポイント阻害薬である「オブジーボ」は、2018年にノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑教授の研究が基盤となっています。この薬は、従来の抗がん剤とは異なり、血液中のリンパ球(T細胞)が継続的にがん細胞を攻撃できるようにします(図3)。この作用は従来の抗がん剤が効かない進行がんにも治療効果があると期待されています。発売当初は悪性黒色腫に対してのみしか使用が認可されていませんでしたが、全世界で様々ながん種に対する臨床研究が盛んに行われたことにより、年々適応症が拡大しています。しかし、全ての患者さんで治療効果が得られるわけではなく、がん細胞が特定の分子(PD-L1)を発現しているか否かが重要であり、その分子の有無を調べる検査が必要となります。このように、がんに対する治療は様々な選択肢が増えていますが、保険適用が認められているものは一部であり、検査からその後の実際の治療までを考慮すると、高額な医療費になることが懸念されます。
図3
近年では、腫瘍マーカーの検査が健康診断でも実施され、保険適用範囲の拡大やがん遺伝子検査の重要性、新たながん治療開発等のニュースでも取り上げられるため、今後、これらのがん関連検査が皆さんの身近なものになっていくと思われます。

Vol. 73, 2019. 5

臨床化学・免疫検査室 加藤大樹

参考文献

「がん遺伝子パネル検査とは」 松下一之 Medical Technology 46(9): 830-832, 2018

「腫瘍マーカー検査」 齊藤光江 Medical Technology 44(9):967-974, 2016

厚生労働省「平成29年(2017)人口動態統計」

国立がん研究センター がん対策情報センター「がん登録・統計」

「免疫療法(PD-1,PD-L1抗体)の現状に関して」 西川晋吾・西尾誠人Japanese Journal of Lung Cancer Vol57 No2 2017