検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
 
コラム ~検査にまつわるお話です~
基準範囲一覧
東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部 関連リンク

【お問い合わせ先】

東邦大学医療センター
大森病院 臨床検査部

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)

知らぬ間に腎臓病・・・?

今年も健康診断受け、お手元に結果が届いた方も多いのではないでしょうか。学校や職場の健康診断の際に、尿所見異常によって見つかる病気があること、ご存知ですか。特に異常は感じていなくても知らぬ間に病気が進行しているかもしれない、IgA腎症についてお話しします。

IgA腎症とは腎臓の糸球体に免疫グロブリンのIgAという蛋白が沈着し、糸球体の毛細血管が破壊されることが原因となって起こる、慢性的な腎臓の炎症のことをいいます。

腎臓は左右に1つずつあり、①血液浄化と尿生成 ②細胞外液量の調節と㏗の維持 ③内分泌器官としての役割 の3つの働きを持っています。糸球体は毛細血管がループ状に糸玉構造をしているのが特徴で、身体の中を巡って腎臓に入ってくる血液のうち約1/5がろ過され、尿のもととなる原尿を作ります。成人の1日の尿量は1~2Lですが、 1日に作られる原尿は成人で約150~180Lといわれ、糸球体を通過した後の尿細管で99%が再吸収されています。また、尿生成の最小単位をネフロンといい、糸球体、糸球体を包み込むボーマン嚢、糸球体でろ過された原尿成分を調節する尿細管からなり、ネフロンは片方の腎臓に100万個あります。
一方、免疫グロブリンのIgAは鼻腔や肺の気管支、腸の内壁、生殖器などの粘膜に存在し侵入してきた病原菌やウイルスなどの抗原を防御する働きをしています。
IgA腎症の原因は不明ですが、糸球体へのIgA免疫複合体の沈着を特徴とします。粘膜に感染した病原体の一部とIgAが免疫複合体を作って血液中に入り、腎臓に流れ着きます。腎臓に流れ着いた免疫複合体は糸球体に沈着してジワジワと炎症を起こし、糸球体を破壊していくといわれています。糸球体は一度破壊されると増えることはなく、破壊が進行していくと次第に腎臓のろ過機能が低下していきます。そのためIgA腎症は、長期にわたり無症状で経過し、病気発覚の約70%が学校や職場の健康診断の際に、偶然蛋白尿や血尿を指摘されています。IgA腎症発覚の動機となる健康診断でみられる血尿は、顕微鏡的血尿といわれ、顕微鏡で観察しないとわからないくらい僅かな血尿のことをいいます。見た目は黄色や透明のため気付かないことが多くあります。また、一部のIgA腎症の患者さんでは、上気道炎、扁桃炎、腸炎(下痢、腹痛)などで38.0度を越える高熱を伴うとき、コーラのような色の血尿(肉眼的血尿)を認めることもあり、IgA腎症の特徴的所見です。

IgA腎症を確定するのは病理検査による診断ですが、以下の検査を補助的に行います。

①尿検査

尿の比重や蛋白尿、血尿などの有無を知ることができる尿定性検査、尿を遠心分離機にかけた後に顕微鏡で尿 中有形成分を観察する尿沈渣検査、1日あたりどの程度の蛋白が尿中に漏れ出しているかを推測することができる尿定量検査を行います。糸球体障害のない際に見られる赤血球 (図1)は中央がくぼんだ円盤状をしていますが、IgA腎症のように腎臓の糸球体障害がある際、尿沈渣検査で変形赤血球(図2)や赤血球円柱 (図3)が観察できます。変形赤血球は糸球体の毛細血管壁の障害により漏出し、こぶ状や円盤状、ドーナツ状など大小不同の多彩な形態を示します。一方、赤血球円柱のような尿円柱は、正常尿中に含まれるTHP(Tamm-Horsfall蛋白)と呼ばれる成分が尿細管から分泌され、尿細管腔を通過する過程で各種細胞成分が取り込まれ形成されます。赤血球円柱は漏出した変形赤血球が腎臓の尿細管腔を通過する過程でTHPに取り込まれ、形成されます。
(図1) 赤血球 ×400  (糸球体障害のない時に見られる)
(図2) 変形赤血球 ×400 (糸球体障害のある時に見られる)
(図3) 赤血球円柱 ×400

②血漿蛋白免疫学的検査

血漿蛋白免疫学的検査では血液中のIgAの量を検査します。血液中のIgA値はIgA腎症の人のうち約半数で上昇しているといわれています。
上記の検査を行いIgA腎症が疑われた場合、確定診断を行うため、病理検査を行います。病理検査は腎生検(太い針を腎臓に刺して腎臓の一部を取り出す検査)により取り出した腎臓の一部を顕微鏡で観察する検査です。腎臓の観察方法は3つあり、①光学顕微鏡による腎組織の全体像や病変部の詳細をみる方法、②蛍光抗体法による免疫グロブリンなどの沈着様式をみる方法、③電子顕微鏡像による糸球体系の微細構造をみる方法にて観察します。
IgA腎症では主に光学顕微鏡像検査および蛍光抗体法を行います。光学顕微鏡にて、糸球体毛細血管を支持するメサンギウム領域の構成細胞と基質の増加を認めた場合、蛍光抗体法にてIgAを蛍光色素により染色し、蛍光顕微鏡でIgAのメサンギウム領域の沈着を検査します。IgAのメサンギウム領域の沈着が認められた場合、IgA腎症の確定診断となります。
IgA腎症は我が国含め世界で最も高頻度に見られる原発性糸球体腎炎で、末期腎不全に陥る代表的な疾患の1つです。腎生検の約1/3がIgA腎症と診断されており、発症率は10万人当たり約4人、有病患者数は3万3,000人程度と考えられています。腎生検時の年齢は10~20歳と35~45歳で二峰性のピークを認め、子供から大人まで広く患者さんはいるといわれています。IgA腎症を発症した患者さんの内、腎生検による診断後20年以上の経過観察で30~40%が末期腎不全へと進行するといわれていて、長期腎予後は必ずしも良好とはいえません。治療は、腎機能や蛋白尿の程度によって異なりますが、主に生活管理、食事療法、必要に応じて薬物療法を行います。

腎臓は『沈黙の臓器』といわれ、自覚症状が乏しく、症状を自覚したときにはすでに進行していることが少なくありません。IgA腎症はいまだ真の発症機序は不明で、根本的な治療法は開発されていませんが、早期から適切な治療を行えば腎疾患の重症化予防は可能であるため、早期診断、早期治療が重要です。

Vol. 74, 2019. 6

一般検査室 長岡すみか

参考文献

厚生労働科研「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくIgA 腎症診療ガイドライン作成分科会:エビデンスに基づくIgA 腎症診療ガイドライン 2014.日腎会誌 57:5-137,2015

髙村 武之/北村 健一郎(山梨大学医学部内科学講座第3教室):IgA腎症 臨床検査 vol.62 no.4 2018年 4月・増刊号

エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014 東京医学社

病気がみえる Vol.8 第2版 腎・泌尿器 MEDIC MEDIA

難病治療情報センター