検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

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脂質の摂り過ぎにご注意を

皆さんは肉と魚ではどちらの方がお好きですか?食の欧米化が進んだ現代では魚より肉が好きという方も多いのではないでしょうか。焼肉や屋外でのバーベキューなどでビールとの最高の組み合わせで、ついつい食べ過ぎたりしていませんか。牛肉や豚肉には脂質が多く含まれています。脂質は身体の中で重要な役割を果たす一方、摂りすぎると身体に害をもたらすため美味しいからといって食べ過ぎには注意が必要です。今回のコラムでは脂質の役割や身体に与える影響についてお話ししていきたいと思います。

脂質は肉の脂や植物油、バター、マーガリン、ナッツなどに多く含まれ、炭水化物やたんぱく質とともに3大栄養素といわれています。身体の主要なエネルギー源になるほか、細胞膜やホルモン、体の仕組みに働きかける生理活性物質の材料になるといった重要な役割があります。脂質が不足すると、疲労しやすくなったり免疫力が低下したりするため、適度な脂質は身体にとって非常に大切です。

しかし現在、食の欧米化により日本人の脂質摂取量は増え、むしろ摂り(摂取過剰によって)すぎによって血清脂質が異常値を示す脂質異常症という状態に陥っている人が増加しています。厚生労働省の「平成29年患者調査の概況」から脂質異常症の総患者数はおよそ220万5000人で、男性が63万9000人、女性が156万5000人となっていて、20年足らずでおよそ2倍に増えています。血清脂質の主な成分はコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、リン脂質、遊離脂肪酸であり、脂質異常症は血清中のコレステロールやトリグリセライドが高値を示します。日本動脈硬化学会が動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2017年)として脂質異常症の診断基準を定めており表1に示します。

LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド(中性脂肪)150mg/dL以上高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール170mg/dL以上高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL境界域高non-HDLコレステロール血症
表1. 脂質異常症診断基準(空腹時採血)

血液中にはリポタンパク質という成分が存在していて、主に肝臓で合成されたコレステロールを体全体に運ぶ役割をもつLDLと体全体に運ばれたコレステロールを肝臓に戻す役割を持つHDLがあります。LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」、HDLコレステロールは「善玉コレステロール」とも呼ばれることは皆さんもご存知かと思います。これはLDLコレステロールが血中に過剰に存在すると血管壁にコレステロールがたまり動脈硬化を進行させる原因となることから、逆にHDLコレステロールは血管壁にたまったコレステロールを肝臓に戻してくれることからこのように呼ばれています。また、Non-HDLコレステロールはその名の通り、HDLコレステロール以外のコレステロール値で総コレステロールからHDLコレステロールを引くことにより求められます。中性脂肪が400mg/dL以上や食後採血の場合はNon-HDLコレステロールを用いることがあります。脂質異常症ではLDLコレステロールが高い、HDLコレステロールが低いあるいは中性脂肪が高い状態であり、血管壁にストレスがかかり、動脈硬化性疾患、特に冠動脈疾患に注意が必要になります。健康診断で血液検査の生化学の項目にHDLコレステロールとLDLコレステロールがありますのでご自身の結果を確認してみましょう。年齢、性別、喫煙歴、血圧、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、高血糖などの耐糖能異常の有無、冠動脈疾患の家族歴を得点化したものの合計点によって、この先10年間の予測される冠動脈疾患発症リスクを分類できます。低リスクに分類されると2%未満、高リスクに分類されると9%以上の確率でこの先の10年間で冠動脈疾患を発症する危険性があります(表2. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン参照)。

脂質異常症の診断基準値を超えている場合は第一に生活習慣の改善を行いましょう。禁煙は動脈硬化予防に重要であり、日本食を中心とした食習慣の改善、適度な運動も非常に有効です。薬物療法においてはLDLコレステロール管理にスタチンが第一選択薬として有用で多くのエビデンスがあります。スタチンはコレステロールの合成に関わる酵素の作用を阻害することでコレステロールを低下させる薬剤です。男性では40~50歳程度から、女性は閉経を迎えるころくらいからLDLコレステロールが上昇するため、その年代の方はより注意深く生活習慣を見直し、改善できるところはできる限り改善していきましょう。

最近、「脂肪の吸収を抑える」や「コレステロールの上昇を抑える」などと謳った特定保健食品(トクホ)のCMをよくみかけ、みなさんの健康に対する意識は高まっていると思います。今回のコラムを読んで、普段からよく耳にするコレステロールが実際に体の中でどのような役割を果たしているのか、一方、どのような悪影響があるのかということについてご理解いただければ幸いです。

治療方針の原則管理区分脂質管理目標値(mg/dL)
LDL-CNon-HDL-CTGHDL-C
一次予防低リスク<160<190<150≧40
中リスク<140<170
高リスク<120<150
二次予防冠動脈疾患の既往<100<130
表2. リスク区分別脂質管理目標値

Vol. 75, 2019. 7

免疫・臨床化学検査室 大竹洋輔

参考文献

日本動脈硬化学会 ホームページ

日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版_日本動脈硬化学会,2017

臨床検査学講座 臨床化学検査学 医師薬出版株式会社 第3版

厚生労働省 平成29年 (2017) 患者調査の概況