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卵の数はどのくらい?? -AMHについて-

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。不妊のカップルは約10組に1組と言われていますが、近年、妊娠を考える年齢が上昇していることもあり、この割合はもっと高いとも言われています。

不妊原因は男女共にあり、過去に行なった不妊治療患者を対象としたアンケート調査では、男性因子、卵巣因子、卵管因子、子宮因子、免疫因子などが明らかとなりました。特に、男性因子と女性因子では重複があり、男性因子の割合は、女性との重複と単独をあわせて約45%に上ることが分かっています。女性の主な原因としては卵巣因子が挙げられます。一人の女性の卵巣で生涯産生できる卵の数は決まっていると言われていて加齢とともに減少していくのですが、実は血液から残りの卵の数を知ることができる検査があることをご存知でしょうか?

今回は卵巣予備能の評価の指標に用いられる「抗ミューラー管ホルモン」についてお話しいたします。

抗ミューラー管ホルモン(Anti-Mullerian Hormone以下AMH)とは、transforming growth factor(TGF)β-superfamilyに属する二量体の糖蛋白質で、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。男性においては精巣のセルトリ細胞から分泌され、ミューラー管の退縮と正常な男性生殖器の形成を促します。女性においてはAMHの分泌は出生時頃から検出されはじめ、思春期後に高値となり、閉経で検出不可能となるまで加齢とともに減少します。

卵胞は、原始卵胞から一次卵胞、二次卵胞、そして胞状卵胞へと、常に一定の割合で成長していて、AMHは前胞状卵胞から分泌されます(図1)。そのため、AMHは原始卵胞から発育する前胞状卵胞数を反映すると考えられており、その値は、卵巣内にどれぐらい卵の数が残っているか、つまり卵巣の予備能を反映するといわれています。残りのおおよその卵の数がわかるため、卵巣機能評価をする上では従来の卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、エストラジオール(E2)などより評価しやすいともいわれています。AMHは血清(採血後遠心分離をし、血球を沈めた上清)により電気化学発光免疫法(ECLIA法)を用いて測定しています。また、通常、月経周期に合わせてホルモン値は推移していきますが、AMHは月経周期に左右されないため、どの時期に測定してもよいとされています。

図 1
図 1
図 2
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女性が一生で排卵する卵子の数は400個~500個と推定され、出生時100~200万個の卵子の元である卵母細胞を持っています。毎月1回の排卵には約1000個消費され、卵子の中で一番タイミングのいい卵子1個が排卵されます。出生時100~200万個あった卵母細胞は、10代で30万個、20代で10万個、30代で2~3万個、閉経で検出できなくなるまで加齢にともなって減少します(図2)。

先述の通りAMHは加齢に伴い低下します。若年で低値の場合は卵巣予備能の低下ととらえ、早期閉経を迎える可能性があること、高度不妊治療へのステップアップの判断材料として用いられることもあります。一方、高値の場合は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われます。月経異常や不妊の原因となるPCOSでは、排卵が阻害され卵巣に多数の前胞状卵胞が存在することから、AMHは高値となります。また、不妊治療において、AMHは採卵数と正の相関を示すため、体外受精周期における採卵数の予測や卵巣刺激法の選択の指標、卵巣過剰刺激症候群の予測と回避に有用である とされています。

ただし、AMHが示すのは原始卵胞の数であり、低ければ妊娠する可能性が低い、高ければ妊娠する可能性が高い、という意味ではありません。ほとんどゼロに近い数値でも自然に妊娠・出産している人はいます。重要なのはその受精するまでの利用できる卵が残っているかで、卵子の質に関しては女性の実年齢も重要です。

卵巣では卵子は作られておらず、生まれる前に作られた卵子が保存されているだけです。したがって卵子の質は、その古さつまり、年齢の影響を直接受け、卵子の数も年齢とともにどんどん減っていきます。その数は年齢以上に個人差が大きく、いざ子供が欲しいと思った時に卵子がないということが起こりかねません。卵巣予備能を知ることは、不妊治療がいつまでできるかの目安ともなります。みかけが若くても、卵巣の卵子が非常に早く減ってしまい、20代、30代で閉経する女性は多く見られます。寿命がどんどん長くなっても、女性の生殖年齢は昔と変わりません。

当院でも2019年4月よりAMH検査が始まりました。自費診療(保険適用外)となってしまいますが、ご自身の卵巣予備能を知ることができると思いますので、気になる方は受診されてみてはいかがでしょうか。ご自身のお体、大切にしてください。

Vol. 81, 2020. 1

一般検査室 長岡すみか

参考文献

抗ミューラー管ホルモン(AMH) 日本臨床 68巻増刊号7(2010) 宗 晶子 片桐由起子 森田峰人

卵巣機能の新指標 「抗ミューラー管ホルモン」Medical Technology Vol.40.11(2012) 宗 晶子  片桐由起子 森田峰人

大森病院リプロダクションセンター(婦人科)

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