検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
AIと医療機器
私たちの生活にAIが取り入れられるようになって久しく、今や社会の至る所でAIが活躍しています。AIという新しい技術を積極的に使用している人、何だかよく分からなくて敬遠している人、それと知らずに使用している人、様々だと思います。今回はそんなAIと医療、そして臨床検査との関わりについてお話ししたいと思います。
そもそもAIとは、artificial intelligenceの略称であり、人工知能と訳されます。今現在、AIの定義は明確には定められていませんが、私たちの周りのAIが行っていることを端的に言うと、「膨大な量のデータを基にして、事象に対する最適な回答を導き出す」という事になるのではないかと思います。また、AIは学習を行うことでその性能を変化させます。基となるデータが増えていくことで、AIの導き出す回答が変化していくのです。そして、昨今大きく取り上げられているのがDeep Learning(深層学習)を用いたAI技術の活用です。その特徴は、性能を変化させるための学習を自ら繰り返し行うことにあるのですが、その過程は傍から見れば人間が積み重ねた経験からどんどん成長していく様と似ています。
では、医療の世界ではAIがどう活用されているのでしょう。AIの活用が期待されている分野のひとつに、画像検査の分野があります。2019年3月、オリンパス社から「EndoBRAIN(エンドブレイン)」というソフトウエアが発売されました。このソフトウエアは大腸の内視鏡画像をAIが解析し、検査中にリアルタイムでポリープが腫瘍性である可能性、および非腫瘍性である可能性を数値で出力するというもので医師の診断を支援する目的で開発され、内視鏡分野で国内初の薬事承認を得ています。しかしながら、先にお話ししたDeep Learningの技術はこのソフトウエアには使用されていません。これには、急速に発達してきたAI技術とそれにまだ追いつけていない法体制の現状が関係しています。
先程もお話しましたが、AIには学習を通じてその性能を変化させていくという特徴があります。ユーザーやメーカーが学習をさせる場合や、AI自身が学習を行う場合など様々ですが、正しい学習が行われればAIの性能がどんどん良くなっていく反面、間違った学習や偏った学習により性能が衰えていく場合もあると言われています。同じ製品を購入したとしても、その後の学習次第で異なる回答を導き出すようになる可能性を含んでいるのです。この点が、AIを活用した医療機器を製造、販売する上で大きな課題となっています。
医療機器として製造、販売されるためには、国にその性能を認められる必要があります(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)。これまでの医療機器は性能が大きく変化することはなく、製造、販売時の性能がある程度保たれていることが一般的でした。法律上、性能が変化する医療機器のことはほとんど想定されておらず、製品の改良等に伴っては再審査を受けることになっています。しかし、近年のAI技術の発達により、性能が刻々と変化する医療機器は現実のものとなりつつあり、その中でどのように性能を保障していくか、法律を見直す必要がでてきました。今現在、法体制は整えられつつあり、AI技術を活用した医療機器が一般的になるのもそう遠くないと考えられます。
臨床検査の世界でもAIを導入した検査システムの開発が進められているようです。現在でも、分析装置が血液細胞や尿中有形成分を形態的特徴から分類したり、腫瘍性の細胞である可能性を示唆したりと、検査の一部分は自動化されていますが、最終的には臨床検査技師が介入して判断を下す症例も少なくありません。また、検査データを確認して再検査を行うべきか判断をするのも臨床検査技師の仕事ですが、そうしたルーチンワークの一助としてAIが導入されることが考えられます。
今日、医療の現場では非常に多くの医療機器が使用されており、私たち臨床検査の現場も、多くの場面で検査機器を使用しています。今後は、AI技術が導入された医療機器、検査機器が普及していくと予想されますが、そうした検査機器を適切に使用し、精度の高い検査結果を臨床に提供することが私たち臨床検査技師の役割であると考えています。
Vol. 82, 2020. 2
一般検査室 加藤美咲
参考文献
「平成30年度 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業 人工知能分野 審査WG報告書」
「第2回 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム 資料4 AI技術を利用した医療機器の医薬品医療機器法上の取扱にかかる対応について」
「腎泌尿器検査研究会 第15回学術集会 抄録集 特別企画 腎・泌尿器検査とArtificial Intelligence(AI)」
「SIEMENS Healthineers News&Stories 筋肉の自動化から脳機能の拡張まで AIは臨床検査室にどんな変革を起こすのか」
コラム
- 花粉症とともに
- CAPD管理に有用な臨床検査
- 水ぼうそうと髄膜炎
- アキレス腱は家族性高コレステロール血症のシグナル
- 「似て非なるもの?」
- 夏場は特にご用心! —本当にあった痛い話—
- ウイルスと異型リンパ球
- がんの原因は一人ひとり違うからこそ、必要ながんゲノム医療へ
- COVID-19診断に関わる臨床検査技師
- 意外と知られていない甲状腺疾患
- コロナウイルスと臨床検査
- AIと医療機器
- 卵の数はどのくらい?? -AMHについて-
- かつて亡国病とも言われた結核の今
- ウコンと肝障害について
- RSウイルス感染症とは?
- スポーツと貧血
- プールに潜むウイルス-アデノウイルス-
- 脂質の摂り過ぎにご注意を
- 知らぬ間に腎臓病・・・?
- “がん”とは・・・ -がん検査と近い未来-
- 曲がった細菌と胃腸炎
- 寒いと赤血球が凝集する? —寒冷凝集素—
- 血液中に細菌?
- お酒も飲まずに肝臓病!? NASHのお話
- 「いつのまに!!」 あなたの骨は大丈夫ですか?
- 妊娠検査薬で妊娠判定が出来るのはなぜ? —hCGについて—
- 首都圏で大流行!『風疹』
- ドーピングとエリスロポエチン
- 痛風と偽痛風
- AICSって知っていますか?
- 再び流行!?麻疹について
- 中性脂肪が気になるあなたへ
- 「Nightmare bacteria(悪夢の細菌)」-悪夢をもたらす恐怖の細菌-
- 大人の白血病?成人T細胞白血病のお話
- 抗生物質リストセチンと臨床検査
- O157について
- 糖尿病腎症と微量アルブミン
- 膵臓がんの現在とこれから
- 実は身近な横紋筋融解症
- 肺がんと腫瘍マーカー
- いろいろな採血管
- ストレスと月経不順
- 蛇の毒
- 胃壁に寄生虫が噛みついていませんか?魚介類の生食に注意しましょう
- 冬の脱水と電解質
- モンキーフェイス
- α‐リポ酸とインスリン自己免疫症候群の関係について
- 尿の色
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- pHってなんだ?
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- アメーバ赤痢
- エンターテインメントとしての遺伝子検査
- 伊勢志摩サミットと薬剤耐性菌
- 「尿酸値」~足の親指の付け根が急に痛み出したら、「痛風」を疑いましょう。
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- 「糖尿病と認知症(アルツハイマー病)」
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