検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
夏場は特にご用心! —本当にあった痛い話—
患(わずら)った人が異口同音に「経験したことのない痛みだった」と振り返る疾患、それが悪名高い「尿路結石」です。今回はこの尿路結石について、検査部の視点からお話ししましょう。
石の正体

▲図1 場所別にみる尿路結石の種類
尿路結石とは、尿成分の一部が腎臓や尿管、膀胱、尿道で析出・結晶化して石のようになったもの、またそれに伴う症状を含めた疾患のことを指します。30~50代の男性に好発し、生涯罹患率は9%と大変身近な疾患です。日本では尿路結石患者の約90%が上部尿路結石(図1参照)で、特徴的な激しい背中の痛みは、結石が尿管に嵌頓(かんとん)(石が尿管壁をグイッと押し込んで動かなくなった状態)した時に起きる尿管の痙攣によるものです 1)。
尿路結石の診断
尿路結石の診断は血液検査、尿検査だけでは十分でなく、超音波検査や腎・尿管・膀胱単純撮影(KUB)、経静脈的尿路造影(IVU)などの画像診断も行い、総合的に判断する必要があります 2)。尿路結石と診断された患者さんに対しては、さらに結石性状と閉塞状態を評価し適切な治療へと繋げます。
①結石性状を調べる検査
結石性状を調べる検査のひとつが、尿中に析出した結石成分の結晶を顕微鏡下で観察する「尿沈渣検査」です。尿沈渣検査では図2のような観察像から、結石成分の特定に結びつけていきます 3)。
①結石性状を調べる検査
結石性状を調べる検査のひとつが、尿中に析出した結石成分の結晶を顕微鏡下で観察する「尿沈渣検査」です。尿沈渣検査では図2のような観察像から、結石成分の特定に結びつけていきます 3)。

▲図2 成分別にみる尿路結石の種類
尿路結石患者の90%以上に見られるカルシウム(Ca)結石(シュウ酸Ca結晶、リン酸Ca結晶など)や尿酸結石の形成の背景は様々ですが、中でも生活習慣、別の疾患との関係は治療を進めるにあたりとても重要です2)、4)。
生活習慣
上部尿路結石は第二次世界大戦後に急増した疾患で、それは食の欧米化により栄養状態が変化し、体内の結石成分(カルシウム・シュウ酸・尿酸)、抑制因子(クエン酸・マグネシウム)に影響を与えたためだと言われています。また近年、メタボリックシンドローム、糖尿病などの生活習慣病は、インスリン抵抗性が上がり、腎でのアンモニア産生が障害され、尿pHが低下(酸性尿化)するため、尿路結石の発症リスクを増大させるとも報告されています2)。
別の疾患
Ca結石の再発を何度もくり返す場合には、尿路結石が別の疾患に伴う二次的な症状であることが疑われます。原発性副甲状腺機能亢進症は腸管からのCa吸収を促進させ、血中Ca値を正常に保つ働きをする副甲状腺ホルモン(PTH)を過剰に分泌する疾患で、高Ca血症、高Ca尿となり、その結果Ca結石が形成されます2)。他にも、ウレアーゼ産生菌による尿路感染症が原因で析出するリン酸マグネシウムアンモニウム結石、シスチン尿症という常染色体劣性の遺伝性疾患患者の尿中に析出するシスチン結晶などがあり、それぞれ原疾患に対する治療を考える必要があります。
このように、結石性状を知ることは、結石にあった治療薬を選ぶためだけではなく、さらなる検査、原疾患の治療が必要かどうかを判断する手がかりにもなるのです。
②閉塞状態の評価
結石によって尿路が閉塞するとどうなるのでしょうか。尿流が阻害されると腎臓は尿が滞留し拡張する水腎症となり、閉塞性腎盂腎炎や腎後性腎不全を引き起こす危険性がでてきます。場合によっては生死に関わる、緊急を要する病態になることもあります。
このように、結石性状を知ることは、結石にあった治療薬を選ぶためだけではなく、さらなる検査、原疾患の治療が必要かどうかを判断する手がかりにもなるのです。
②閉塞状態の評価
結石によって尿路が閉塞するとどうなるのでしょうか。尿流が阻害されると腎臓は尿が滞留し拡張する水腎症となり、閉塞性腎盂腎炎や腎後性腎不全を引き起こす危険性がでてきます。場合によっては生死に関わる、緊急を要する病態になることもあります。
尿路結石の治療
尿路結石症の治療には大別して、保存的治療と積極的治療とがあります。(図3)

▲図3 尿路結石症の治療法決定までの流れ
(図説 新しい尿路結石症の診断・治療より引用改変)
(図説 新しい尿路結石症の診断・治療より引用改変)
保存的治療では水分の摂取(2~3L/日)、運動指導、薬剤による尿中成分の補正により、結石の体外への排泄を促します。積極的治療では外科的な結石の除去を行います。近年では開腹せずに衝撃波で結石を破壊する低侵襲性の治療が、多くの尿路結石の標準的治療となっています 2)、5)。
終わりに
尿路結石は再発率が高いため、飲水指導、食事指導、薬物による再発予防も重要です。
脱水症に注意!と言われる夏には、尿も鬱滞(うったい)しやすいと言えます。そう、夏は尿路結石の痛みに襲われやすい季節なのです。こまめにマスクを外して、しっかりと水分補給を!
Vol.88, 2020.8
一般検査室 冨山 遥
参考資料
1)病気がみえる 編集 医療情報科学研究所 vol.8 メディックメディア
2)図説 新しい尿路結石症の診断・治療 編集 伊藤晴夫 正井基之 赤倉功一郎 メジカルビュー社
3)日本臨床衛生検査技師会誌 医学検査第66巻 J-STAGE1号 尿沈渣特集 編集 一般社団法人 日本臨床検査技師会
4)尿路結石ハンドブック 編著 宮澤克人 中外医学社
5)尿路結石症診療ガイドライン2013年度版 編者 日本泌尿器科学会 日本泌尿器内視鏡学会 日本尿路結石症学会 金原出版
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