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「似て非なるもの?」

似て非なるもの

「似て非なるもの」とは、一見すると良く似ているが、実際には全く異なっているさまを示すものとされています。筆者がパッと思いつくものといえば、「名探偵コ○ンと未来少年コ○ン」などがありますが、人それぞれ思い浮かぶものがあるでしょう。細菌の世界にも「似て非なるもの」とまでは言えないかもしれませんが、非常に類似した性質を示すけれど、正式な菌種名は異なるという例が多数存在しています。

黄色ブドウ球菌もどき

ブドウ球菌は、顕微鏡で菌体を拡大して見ると、ブドウの房のように丸い菌体が集まって観察されます。その中でも、黄色ブドウ球菌は、ヒトや動物の皮膚に常在しており、学名が「Staphylococcus aureus」と表記され、微生物培養検査でも日常的に遭遇します。この菌と非常に見た目が類似している菌に「Staphylococcus pseudintermedius」や「Staphylococcus argenteus」といった菌があります。いずれの菌種もヒツジ血液を含有する培地で培養すると、集落周囲の赤血球が破壊され、光にかざすと集落周囲が透明に見えます(完全溶血=β溶血と言います)。集落性状は極めて類似しており、集落性状のみでこれらを鑑別するのは非常に困難です。これらの中で、S. argenteusS. aureusの祖先と考えられており、病原因子も多くの部分で共通している為、同様の扱いをしても問題となりませんが、S. pseudintermediusは中身が若干異なるので、S. aureusとは明確に区別する必要があるのです。いずれも似たような菌ではありますが、ヒトからの分離頻度は本家のS. aureusが圧倒的に多く、S. argenteusはオーストラリアの先住民であるアボリジニや南米のアマゾン先住民で多く分離されたという報告があり1)S. pseudintermediusはヒトより犬からの分離が多いと言われています。

緑膿菌もどき

緑膿菌は、土壌や水回り等の環境中に広く分布する一方で、病原体としても広く認識されています。緑膿菌を学名で記すと「Pseudomonas aeruginosa」と表しますが、これによく似ている緑膿菌モドキとして「Pseudomonas otitidis」などがあります(他にも複数あります)。両者は集落の見た目は、淡い緑色をしており非常に類似していますが、中身は異なる別物です。P. otitidisは強力な抗菌薬加水分解酵素(βラクタマーゼ)を産生し、治療の切り札とされるカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌なので、正しい同定が必要となります。

一方で、同じ「緑膿菌:P. aeruginosa」なのに、集落性状が全く異なるという例も少なくありません。まるでスライムのようにブヨブヨした緑膿菌も存在します(下図参照)。見た目で菌種名を推定する事は、臨床的にも非常に重要な事ですが、騙されないように感覚を研ぎ澄ませています。
技術の進歩は日進月歩。新たな技術や解析手法が開発されることで、細菌の分類や名称も日に日に複雑化してきました。そしてこれからもその流れは変わらないでしょう。細菌からすれば人間の都合で勝手に分類を決められたり、いきなり苗字を変えられたりと何かと迷惑しているかもしれません。

Vol.89, 2020.9

微生物検査室 山田景土

参考文献

Becker, K. et al. Clin Microbiol Infect ;25:1064-70.