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アキレス腱は家族性高コレステロール血症のシグナル

アキレス腱の厚さをチェックするだけで、「家族性高コレステロール血症(FH)」という遺伝子疾患の補助診断になることをご存じでしょうか。

家族性高コレステロール血症(FH)とは

FHは、血液中の悪玉と呼ばれるLDLコレステロールが高値となる病気です。一般的な高LDLコレステロール血症は食生活の乱れや運動不足などの生活習慣が原因となりますが、FHは遺伝子異常が原因となり発症します。通常体内のLDLコレステロールは、肝臓の細胞表面にあるLDL受容体と呼ばれる蛋白によって細胞の中に取り込まれ壊されます。しかし、FHはこのLDL受容体の遺伝子やこれを機能させる遺伝子に変異が起こり、血液中のLDLコレステロールが細胞に取り込まれない状況になり、血液の中に溜まってしまいます。そのため、FH患者さんは中高年でLDLコレステロールが高くなった人とは異なり、生まれたときからずっと血管内がLDLコレステロールの高い状態にさらされることになり、やがて血管壁に沈着し、徐々に血管を狭めていくことで動脈硬化の発症リスクが高まります。

FHの現状

このFHは常染色体優性遺伝であり、両親の片方の遺伝子より遺伝した場合をヘテロ接合体といい、両方の遺伝子より遺伝した場合をホモ接合体といいます。お父さん、お母さんのうちの1人がヘテロ接合体の場合、子供には2分の1の確率でヘテロ接合体になります。また、お父さん、お母さんがいずれもヘテロ接合体の場合、子供は、4分の1の確率でホモ接合体、2分の1の確率でヘテロ接合体、4分の1の確率で健常となります。特にFHホモ接合体患者は重症化するケースが多く、FHヘテロ接合体患者の血清総コレステロール値の平均は320~350mg/dL1)、FHホモ接合体患者では600~1,200mg/dL1)であり、FHホモ接合体患者の方がはるかに高値をとり、難病指定もされています2)。FHに気づかず放置しておくと、血液中の高LDLコレステロールにより動脈硬化が進行し、男性は30~50歳、女性は50~70歳と若いうちから急性心筋梗塞や狭心症を発症しやすくなります。事実、FHヘテロ接合体患者の死因の約60%は冠動脈疾患であり、遺伝子変異のない一般的な高コレステロール血症患者に比べると発症リスクは、なんと約13倍と報告されています3)4)。さらに、問題なのはその患者数です。一般的にFHヘテロ接合体患者は500人に1人以上、FHホモ接合性患者は100万人に1人以上存在するといわれており、我が国におけるFH患者総数は30万人以上と推定されています1)3)。また、最近では遺伝子診断技術の進歩により確定される症例が増加しており、従来よりも多くのFH患者がいるとの報告もあり、決してまれな病気ではありません。しかし、日本のFH患者の診断率は1%未満ときわめて低いと推定されており、生活習慣病による高LDLコレステロール血症と診断されることも多く、見過ごされやすい病気なのです5)6)。実際に高LDLコレステロール血症で治療を受けている患者のうち、FH患者が約8.5%を占めるとする報告もあります3)

FHの診断

FHが疑われる場合はどのような症状をチェックすればいいのでしょうか。日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドラインによれば、15歳以上の成人FHの診断基準として、① 未治療時のLDLコレステロールが180㎎/dl以上、②2親等以内の血族にFH、または男性55歳未満・ 女性65歳未満の冠動脈疾患既往、③アキレス腱肥厚、あるいは手背・肘・膝等の腱黄色腫、皮膚黄色腫、のうち2項目が該当し、かつ続発性高脂血症が除外されれば、FHと診断されます3)。とくにFHの鑑別おいて、自宅でも簡単にできるチェック項目は③のアキレス腱肥厚の有無ではないでしょうか。アキレス腱にコレステロールが蓄積することで厚くなっていきますが、FHヘテロ接合体患者の82%がアキレス腱肥厚を含む腱黄色腫が認められた報告もあり7)、FHの症状で最も特徴的です。アキレス腱の厚さは通常1cm前後といわれていますが、病院ではX線撮影や超音波検査でアキレス腱の厚さを測定しています8)9)

最後に

FHは遺伝子の病気であるため、生涯にわたり治療が必要になります。病気を早期発見し、薬物療法によるコレステロール値の管理で、心筋梗塞や狭心症の発症のリスクを軽減することができます。また、薬物療法ではLDLコレステロールを十分に下げることが困難なFHホモ接合体患者などには、体外循環装置を用いて血液中のLDLコレステロールを分解・除去するLDLアフェレーシス療法が適用されています3)

まずLDLコレステロールの高い人は、アキレス腱が肥厚していないか気にしてみてはいかがでしょうか。

Vol.90,2020.10

免疫・臨床化学検査室 高橋 望

参考文献

1)日本動脈硬化学会ホームページ

2)難病情報センターホームページ[家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)(指定難病79)]

3)斯波美奈子ほか. 家族性高コレステロール血症診断ガイドライン2017;日本動脈硬化学会 FH診断ガイドライン作成委員会

4)斯波美奈子. 家族性高コレステロール血症について:Therapeutic Research 2019;40(9):689-691

5)東條美奈子. 知らないと怖い家族性高コレステロール血症と心筋梗塞:Therapeutic Research2017;38(10):919-920

6)吉田雅幸. 小学生で心筋梗塞を起こさないために知っておきたい家族性高コレステロール血症:Therapeutic Research2017;38(10):921-922

7)Bujo H et al. Clinical Features of Familial Hypercholesterolemia in Japan in a Database from 1996-1998 by the Research Committee of the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan . J Atherosclerosis and Thrombosis 2004 ; 11(3): 146-151

8)成人家族性高コレステロール血症スクリーニングに用いる 「超音波法によるアキレス腱厚測定」の標準的評価法 ; 日本超音波医学会・日本動脈硬化学会合同

9)小倉正恒. 家族性高コレステロール血症の診断とリスク評価のためのアキレス腱エコー:超音波検査技術2019;44(4):477-485