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水ぼうそうと髄膜炎

水ぼうそう、という病気は皆さんも一度は耳にしたことがあるかと思います。幼少期にかかった記憶がある方もいらっしゃるかもしれません。

水ぼうそうは医学的には「水痘」といい、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus :VZV)による感染症です。38℃前後の発熱と全身に赤い発疹(水ぶくれ)が多発しますが、一週間程度で痂皮化(かさぶたのようなものに変化)します。すべての発疹が痂皮化すると感染力を失います。感染経路は、患者の咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことによる感染(飛沫感染・空気感染)、あるいは水疱や粘膜の排出物に接触することによる感染(接触感染)です。

通常は軽症で、一度感染すると生涯かかることはないという終生免疫を得ることが多いと言われていますが、成人で罹患すると重症化しやすい傾向があります。

本邦では、学校伝染病の指定を受けており、2014年10月から水痘帯状疱疹ウイルス(以下、VZV)のワクチンが定期接種となりました。水痘患者に接触した場合でも、3日以内にワクチンを接種すれば80-90%の発病予防や症状の軽減が可能とされています1)2)

VZVによって引き起こされる「水痘帯状疱疹ウイルス性髄膜炎」という疾患があります。水ぼうそうや帯状疱疹にかかって頭痛を併発した際に、髄膜炎とはなかなか結び付かないかもしれませんが、このVZVによる髄膜炎は早期に治療しないと命に関わる疾患です。

まずは、髄膜炎について簡単にご説明しようと思います。

私たちの脳と脊髄の周りは髄膜と呼ばれる膜で覆われています。髄膜には、硬膜、くも膜、軟膜という3種類の膜があり、軟膜とくも膜の隙間はくも膜下腔と呼ばれ、脳脊髄液という液体で満たされています。一般に「髄膜炎」とは、細菌またはウイルスの感染によってこの軟膜に炎症をきたす疾患のことです。脳実質まで炎症がある場合には脳炎と呼ばれます3)

VZVは初感染後に知覚神経節に潜伏感染しますが、宿主の免疫によって活動性が抑えられることで多くの場合は生涯再発なく経過します。しかし宿主の免疫能低下によってウイルスが再活性化すると体表面に帯状疱疹として現れてきます4)。再活性化したウイルスが脳脊髄液に侵入し炎症を引き起こすのが髄膜炎です。VZVの再活性化によって帯状疱疹のみ発症する人もいれば、髄膜炎のみの人、どちらも同時に発症する人もいます。また初感染の際に髄膜炎を併発する人もいます。

VZVによる髄膜炎が疑われる場合には腰椎穿刺を行い脳脊髄液の検査をします。採取した脳脊髄液中で単核球(単球・リンパ球)の増加が見られると、中枢神経でウイルス感染症等による何らかの炎症が起こっていることが考えられます。髄膜炎がVZVによるものと診断する方法として脳脊髄液のPCR検査を行いVZVのDNAを検出する方法や、脳脊髄液からVZVに対する抗体を検出する方法があります。検査によってVZVによる髄膜炎と診断された場合は、速やかにアシクロビルなどの抗ウイルス薬の投与が行われます5)

先の通りVZVは免疫力が低下した宿主で再活性化を起こすことが知られており、免疫力低下の要因として糖尿病、悪性腫瘍、免疫抑制剤・抗がん剤等の使用の他、高齢者(50歳以上)や高ストレス、過労もリスクとして挙げられます6)。今年はCOVID-19の流行によって生活が大きく変化し、先の見えない不安や多大なストレスを経験している方も多い事と思います。自身の免疫力を保ち感染症を防ぐためにも、この冬は例年より自分を労わる時間を積極的に取るように心掛けて過ごしていきたいですね。

Vol.91,2020.11

一般検査室 黒澤夏美

参考文献

1)東京都感染症情報センター

2)感染症クイックリファレンス 一般社団法人 日本感染症学会

3)髄液検査技術教本 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会

4)髄膜炎症状が先行した,帯状疱疹に伴う髄膜炎の1 例及び健常小児における帯状疱疹に伴う髄膜炎に関する文献的検討 小児感染免疫 Vol. 31 No. 1 47 ,2019

5)健康小児に発症した帯状庖疹髄膜炎の2例 小児科臨床 Vol.67 No.82014 1277(21)

6)公益財団法人長寿科学振興財団webページ 帯状疱疹の原因