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花粉症とともに

皆さんご存じの花粉症の原因となる花粉は、春に限らず9月~10月に飛散ピークを迎えるブタクサ、ヨモギ、カナムグラや地域によっては1年中飛散しているスギやイネなどがあります。花粉症はくしゃみ・鼻水・鼻づまりの症状を起こし、さらにたくさんの花粉にさらされた場合、眼・口腔・咽頭症状なども発症する病気であり、季節性アレルギー性鼻炎とも呼ばれます 1) 。そこで今回は皆さんと関わりが深い花粉症についてお話しします。
日本の花粉症を有する人の数は、正確なところは分かっていませんが、2019年の全国鼻アレルギーの疫学調査で、アレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%、花粉症全体の有病率は42.5%、そしてスギ花粉症単体の有病率は38.8%でした。同じような調査が2008年にも実施されており、スギ花粉症の有病率は10年間でおよそ10%増加していました 2) 。スギは生長がよく、木材として加工しやすいため 3) 、北海道の南部から九州地方にかけて広い地域に植林されています。その面積はおよそ450万haとなり、特に東北と九州地方に多くなっています。そのため、わが国の花粉症の特徴はスギ花粉による花粉症とされており、花粉症の約70%はスギ花粉症と考えられています 4)

前述した花粉症の原因となるスギやイネなどは医学用語でアレルゲンとよばれます。アレルゲンを原因(抗原)として起こる反応をアレルギーといい、花粉症はアレルギーのひとつに分類されます。人の目や鼻では侵入してきた花粉などの異物に対して無害化しようとする抗原抗体反応が起きます。この反応はアレルゲンとアレルゲンに対する特異的IgE抗体(それぞれのアレルゲンに対するIgE抗体)との反応をいい、一般的には免疫反応は身体にとって良い反応ですが、花粉症などのアレルギーの場合、過剰に反応してしまうことにより発症するといわれています 1, 4)

この花粉症を診断するために行われる検査には鼻汁好酸球検査・特異的IgE抗体検査・皮膚テスト・誘発テストという検査があります。アレルギーでは白血球の一種である好酸球という細胞が増加します。花粉症ではこの好酸球が鼻粘膜で増加することから鼻汁好酸球検査は顕微鏡を用いて鼻水中の好酸球の数を観察します 5) 。先ほど述べたIgE抗体を検出するための特異的IgE抗体検査は血液中のそれぞれのアレルゲンに対する抗体の量を測定します。抗体の量が高いという結果はそのアレルゲンに対してアレルギーを起こす可能性が高いことを意味しますが、実際に症状を起こさない場合もあります 6, 7) 。一方で、皮膚テストは実際にアレルゲンと特異的IgE抗体との反応を反映しているため、血液検査よりも診断的な有用性が高いとされています 1) 。皮膚テストは皮膚にアレルゲンエキスを少量滴下して糸を通す針の穴程度の小さな傷をつけ、15分後の腫れを評価します。実施には経験を要するため、アレルギーを専門とする医療機関でなければ行われていません。誘発テストは実際に発症しているかどうかを判断できる唯一の方法です。鼻腔内に直径3㎜の濾紙でできた抗原ディスクを挿入し、5分間の鼻症状の有無を評価します。しかし、検査できる項目が少なく検査手技により偽陽性になる場合があります 8) 。このように花粉症の検査は複数あるのですが、検査にも利点と欠点の両面があり、花粉症の診断は問診を含めて総合的に判断されています。

今や国民病ともいわれる花粉症ですが、免疫システムや病態がいまだ十分に解明されていないため、完全な予防法や根治的治療法がないとされています 9) 。そのため、私たちは根気強く付き合っていく必要があります。

Vol. 93,2021.1

免疫・臨床化学検査室 原澤彩貴

参考文献

1)患者さんに接する施設の方々のためのアレルギー疾患の手引き《2020年改訂版》.一般社団法人アレルギー学会.2020

2)松原 篤:鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年、2008年との比較):速報-耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として-.日耳鼻123:485-490.2020

3)藤田晋輔 他:鹿児島大学農学部高隅演習林に植林されたスギ材の材質と利用(第1報).鹿児島大学農学部演習林報告12:57-66.1984

4)花粉症環境保健マニュアル2019《2019年12月改訂版》.環境省

5)黒野祐一:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2013年版(改訂第7版):耳鼻咽喉科医以外の医師のための活用法.アレルギー64(9):1205-1209.2015

6)木場奈美恵:コラム「秋の花粉症」

7)近藤康人:血中抗原特異的IgE抗体検査.日本小児アレルギー28(5):867-881.2014

8)後藤 穣:鼻粘膜誘発テストの実施と問題点.アレルギー57(7):824-827.2008

9)安髙志穂:国会における花粉症対策に係る議論の動向 —国会会議録を分析して—.林業経済研究65(1):49-59.2019