ビタミンが止血に関与??

『ビタミン』— 日常生活のなかでビタミンが配合された飲み物や食べ物等を目にする機会も少なくないと思います。ビタミンは微量で生理機能(代謝)の調節を行う低分子物質であり、5大栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質、無機質、ビタミン)のひとつです。ビタミンには種類があり、それぞれに作用がありますが、その中でも欠乏すると出血傾向をきたす「ビタミンK」をご存知でしょうか。今回はビタミンKと止血に関するお話をします。

ビタミンの多くは生体内で合成できないため、食事からの摂取が必要となります1)。現在13種類のビタミン(水溶性ビタミンのB1、B2、ナイアシン、B6、葉酸、B12、ビオチン、パントテン酸、Cと脂溶性ビタミンのA、D、E、K、)について、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年度版)」で食事の摂取基準が策定されています2)。ビタミンKの必要量は1日1µg/kg体重以下であり、食べ物では緑葉野菜、レバー、卵、納豆、チーズ等に含まれており、体内の腸内細菌によってもつくられます1,3)。
では、ビタミンKは止血にどのように関係するのでしょうか。

私たちの身体には怪我による出血から身を守るために止血機構が備わっています。血液は正常時、血管内で流動性を保ち、血管から漏れることなく体内を循環していますが、血管が損傷されることで出血が起こります。出血部位では止血機構が働き、止血血栓によって止血されると、血管壁の細胞が増殖して血管が修復され、その後不要となった血栓は溶かされます(線溶)。止血では血小板が関わる「一次止血」と、血液中の凝固因子と呼ばれる一群のタンパク質が関わる「二次止血」に分けられ3,4) 、ビタミンKは二次止血において重要な役割を担っています。

二次止血の主役となる凝固因子は全部で14種類存在し、その多くは発見された順番にローマ数字が割り振られています。凝固因子のうち第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子は肝臓で産生される際にビタミンKが必要となり、これらの凝固因子をビタミンK依存性凝固因子と呼びます。ビタミンKが欠乏すると正常な凝固因子がうまく作れず異常なビタミンK依存性凝固因子(PIVKAと呼ばれるビタミンK依存性凝固因子の前駆体)が産生されることにより3,4) 、二次止血が適切に機能せず出血しやすくなります。

血液検査ではビタミンKの欠乏が起こると、まず外因系といわれる凝固因子の機能を評価するプロトロンビン時間(PT)の延長が認められます。そしてビタミンK欠乏が高度となると、内因系の凝固因子の機能を評価する活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)も延長します。ビタミンK欠乏が生じる原因には経口摂取不良や吸収不良、肝疾患、胆道系閉塞、抗菌薬の長期投与等があります。新生児、特に未熟児ではビタミンK依存性凝固因子が少なく、生後2~3日目に突然出血傾向が起こり、大量の腸出血により黒色便が排出されることがある(新生児メレナ)ため、新生児には予防的にビタミンKの投与が行われています3)。

ビタミンKと止血の関係は薬剤に応用されており、「ワルファリン」と呼ばれる経口抗凝固剤はビタミンK欠乏に似た状態を引き起こすことにより、血液をかたまりにくくする作用があります3)。そのため静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症など、血栓塞栓症の治療および予防に用いられています。ただしこのワルファリンは薬剤が効きすぎると出血を引き起こす恐れがあるため、ビタミンK欠乏を鋭敏に捉えやすいPTを検査して、薬剤の量が適量であるか、定期的にモニタリングを行います。

今回はビタミンKに関するお話ししましたが、それぞれのビタミンは微量で私たちの身体が健康で維持できるように作用します。厚生労働省で食事の摂取基準が策定されているように2)、ビタミンは摂りすぎにも注意が必要であり、健康食品やサプリメントについては、その利用目的や方法、摂取量に十分に注意して適切なご利用を心がけてください。

Vol. 94,2021.2
血液検査室 加藤 奈美恵

参考文献

  1. 臨床検査法提要 改訂第35版 金原出版株式会社
  2. 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年度版)
  3. 臨床検査学講座 血液検査学 医歯薬出版株式会社
  4. 病気がみえる 血液vol.5 メディックメディア

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