美味しくごはん食べられていますか。

近年、味がしない、おいしく感じないなどと訴える味覚障害の人が増えていると言われています。このように聞くと、新型コロナウイルス感染症を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、味覚障害の原因には、食の欧米化やコンビニなどの加工品、偏食によって生じる食事性、薬剤の副作用による薬剤性、ストレスなどによって引き起こされる心因性など¹⁾、多彩な原因が挙げられます。美味しいごはんを味わうのに重要な働きをしている味覚。これにはある微量元素が関わっています。今回は味覚に関係する微量元素、亜鉛についてお話します。

亜鉛は成人(体重70kg)の体に1.5~3g存在し、最も多く存在するのは筋肉(60%)で、その他、骨(20~30%)、皮膚・毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管・膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)に分布していると言われています。食物から摂取された亜鉛はおもに十二指腸と空腸で銅と拮抗的に吸収されます。吸収された亜鉛の多くが血液中のアルブミンと結合し、全身の臓器に運ばれます。一方、吸収されなかった亜鉛は糞便とともに排泄されます。

亜鉛は生命維持に不可欠な微量元素の1つであり、300以上の酵素の活性中心元素として、細胞分裂や核代謝をつかさどり、発育、成長、創傷治癒、免疫能、皮膚代謝、脳における神経伝達など、様々な生体機能に関与しています²⁾。そのため、亜鉛欠乏により発育遅延・異常、皮膚炎、味覚異常、創傷治癒の遅延、下痢、うつ・情緒不安定等の精神状態の異常や、貧血などを起こします。また、たんぱく質の合成全般にも亜鉛は不可欠であるため、亜鉛含有量の多い臓器、細胞での障害が起きやすくなります。

亜鉛欠乏症の診療指針2018において、血清亜鉛値が60μg/dL未満を亜鉛欠乏³⁾としています。亜鉛欠乏をきたす要因として、摂取不足、吸収不全、需要増大、排泄増加などがあげられます。先述の亜鉛欠乏による全身症状のうち、味覚障害は最も早く現れる症状といわれています。味覚は味覚神経の分布する味蕾で感受され、味蕾には味細胞があります。味細胞は甘味、苦味、旨味、塩味、酸味の5つの基本味を感受しています。亜鉛は昧蕾のターンオーバーに必須であるため、亜鉛不足によりターンオーバーが延長することで、機能低下を起こし、味覚障害が起きるといわれています。

当院で行っている亜鉛の検査は血液を用いて、比色法で測定しています。採血された血液を遠心分離し、その上清である血清に、たんぱく質変性剤を添加し亜鉛を遊離させます。その後、キレート(金属を結合させること)剤を添加し、亜鉛とキレート化合物を生成させ、550nmの吸光度を測定し亜鉛値を求めています(図1)。

このように亜鉛の測定で使用されているキレート作用は、体内でも働いています。その作用は2つあり、食品中に含まれる金属を体内に吸収されやすい形にする作用、体内の有害な金属を排出しやすい形に変えて体外に排出する作用を有しています。前者は玉ねぎやトマト、ネギなどのキレート作用を有する野菜が、吸収されにくい金属を体内に吸収されやすい形に変えています。一方、後者は、治療のため使用する薬剤の中にキレート作用を有するものがあり、これらは長期に服用するとキレート作用により体外に亜鉛を排泄し、亜鉛欠乏をきたすことが知られています。

治療は食事療法、亜鉛内服療法が行われています。日本人の食事摂取基準2020年版において亜鉛摂取推奨量は成人男性11mg,成人女性8mg⁴⁾となっています。まずは、推奨量以上を摂取するように、亜鉛含有量の多い食品を摂取することが大切です。亜鉛を多く含む食品は牡蠣、牛肉、レバー、豆腐、アーモンド、プロセスチーズなどが挙げられます(表1)。

それでも改善しない場合は、亜鉛製剤を投与することもあります。2、3カ月間投与して、血清亜鉛値および症状・所見の改善を確認し、その後、いつまで継続するかに関しては、要因や病態によります。6カ月くらいの投与で中止できる場合や、継続投与が必要な場合などさまざまです。

亜鉛を含む微量元素は、体内に含まれる量は少ないですが、生命活動に重要な役割を担っています。2015年国民健康栄養調査での亜鉛平均摂取量では、約30%の人が亜鉛推奨量を下回っているといわれており⁵⁾、当院で亜鉛の検査依頼があり、血清亜鉛値60μg/dL未満の亜鉛欠乏とされる割合も約3人に1人でした。

日常の食事で微量元素について、着目することは少ないかと思いますが、少し意識して摂取できると代謝機能が改善されるかもしれませんね。おうち時間が増えている今、ご自身の生活を見直してみてはいかがでしょうか。

Vol. 96,2021.4
一般検査室 長岡 すみか

参考文献

  1. 冨田寛:診断と治療 味覚障害 vol.100-no.9,145-151,2012
  2. 金井正光:日本臨床検査法提要 改訂35版,594-595
  3. 亜鉛欠乏症の診療指針2018 一般社団法人 日本臨床栄養学会
  4. 日本人の食事摂取基準(2020年版)
  5. 小切間 美保:国民健康・栄養調査結果に基づく日本人の亜鉛摂取量の評価 Trace Nutrients Reserch 34、02-108,2017

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