GBSスクリーニング検査

GBSとは

GBSとはStreptococcus agalactiaeという細菌のことで、ランスフィールド分類B群に属することからB群溶血性レンサ球菌(Group B streptococci; GBS)と呼ばれます。皮膚や膣、腸内に常在している細菌で10~15%の人が保菌*していると言われる一方で、新生児に感染した場合には1万人に1~2人と低い確率ながら髄膜炎や敗血症といった重い感染症を引き起こす事が知られています1) 。
*菌を持っているが熱や発疹といった症状が出ない状態のこと

GBSが問題視されるようになった背景

時は1970年代に遡ります。アメリカで生後1週間以内の新生児に起こる感染症の主な原因がGBSという菌であるという事が発見されました。1980年代半ばに臨床試験が実施され、GBSを保有している女性に対して分娩時に抗菌薬を投与すると、生後1週間の赤ちゃんに起こる重い感染症を防ぐ事が出来るという結果が得られました。1996年には妊娠35~37週の全ての妊婦さんに対するGBSスクリーニング検査がACOG(米国産婦人科学会)より推奨され、CDC(米国疾病予防センター)やAAP(米国小児科学会)からも素早く支持を受けました 2,3) 。スクリーニング検査陽性であった場合は分娩時に抗菌薬を投与し感染を予防する対策がとられた結果として、生後1週間以内に起こるGBS感染症は約5分の1にまで減らす事が出来たという報告もあります 4) 。

日本では2008年に日本産科婦人科学会/日本産婦人科学会よりガイドラインが発行され、以下の条件でGBSスクリーニング検査が全ての妊婦さんに実施されています (1) 。

1)妊娠35~37週にGBS培養検査を行う
2)検体は膣入口部ならびに肛門内から採取する

検体はスワブと呼ばれる長い綿棒で膣や肛門を拭ったものが培養検査に出されます。なぜ肛門からも採るの?と不思議に思われるかもしれません。GBSは腸内に常在している菌でもあるため、肛門内からも採取することが推奨されています。また出産の時には一生懸命にいきむので糞便が出てしまう事が珍しくありません。(特に妊娠中は便秘に悩まされる方も多く、出産あるある話です)もちろん看護師さんや助産師さんが適切に対応してくれますが、糞便中から感染する事を完全に避ける事は難しく肛門からも採取する方が良いと考えられます。

検査法

細菌が育つ餌としてヒツジの血液を加えたやや固めのゼリーのようなものに提出されたスワブを塗りつけた後、細菌が好む環境に一晩おきGBSが発育したかどうか確認します。拭った綿棒にGBSが付着していれば、血液寒天上に弱い溶血を示すコロニーと呼ばれる細菌のかたまりが出現します。一見するとやや透明感のあるただの白いコロニーですが、光に透かせると溶血している事がよく分かります。

さて溶血を示すコロニーが全てGBSなのかというとそういう訳ではありません。冒頭で少し触れたようにGBSを含む溶血性レンサ球菌はランスフィールド分類という分け方があり、細菌の細胞壁に含まれるC多糖体の違いにより主にA、B、C、D、F、G群の6つに分けられます。検査は専用のキットを用い、コロニーを酵素抽出剤に溶かしたものをキットの試薬と混ぜ凝集するかどうかを確認します。溶血を示す細菌は多く存在しますがB群に凝集を示すのはGBSのみしかおらず、この検査をすればGBSだと確定する事ができます。

同じく溶血を示す細菌の仲間である黄色ブドウ球菌の溶血帯を増強し矢じり状に見えるという特徴もあります。培地中央に黄色ブドウ球菌を塗り、重ならないよう間隔を空け黄色ブドウ球菌に対して垂直にGBSを塗った培地を一晩培養すると、GBSを塗った箇所で黄色ブドウ球菌の溶血帯が増強して見られます(下図〇部分)。

当院では、以前はランスフィールド分類を確認していましたが、現在は質量分析装置MALDI Biotyperと呼ばれる機器を用いて細菌を構成するタンパク質を分析する方法で菌名を確定しています。プレートにコロニーを薄く塗り広げ専用試薬を1滴載せ乾燥させた後、機器にセットすると約1分で結果が分かります。

さいごに

簡単にまとめるとGBSスクリーニング検査というのは「10人に1人くらいが持っているGBSという菌があり、出産の時に赤ちゃんにうつると低い確率ながら重い感染症になる場合があるので、予防するために全ての妊婦さんに対して実施している検査」のことです。

このコラムを読んでくださっている方の中には、GBSスクリーニング検査陽性という結果を受け不安に思うママさんやパパさん、そのご家族ご友人の方がいらっしゃるかもしれません。GBSがどのような経路で体内に入るのか未だ明らかになっていませんが、食べ物や水を介して感染するものではありません5)。常在菌という名の通り誰しもが持ちうる菌なのです。また事前に検査で保菌している事を知ることが出来たおかげで赤ちゃんを守る手段を講じる事が出来ます。

ご不安・ご不明に思われる場合はどうぞ遠慮なくかかりつけの主治医の先生にご相談ください。

Vol.97, 2021.5
微生物検査室 米谷 三奈
 

参考文献

 

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