朝のこわばり
2021年09月08日皆さんは「朝のこわばり」をご存じでしょうか。朝、起きたときに関節が動かしにくく、動かしているうちに徐々に楽になるという経験はありませんか。このように関節の動かし始めがスムーズにいかないことを「こわばり」といいます。朝のこわばりは関節リウマチやほかの炎症性関節炎などにみられる一症状です 1) 。今回はこの関節リウマチについてお話しします。
関節には滑膜があります。滑膜とは関節包(関節を囲んでいる袋状の膜)の内面を覆っている膜で関節液の産生、関節液との物質交換、関節の安定性に作用しています。関節リウマチは増殖した滑膜により関節内に慢性炎症が起こり、関節破壊をきたす疾患です 2) 。通常、人の体には細菌やウイルスなどの外敵から体を守るしくみがあります(免疫)。このしくみが異常を起こし、自分の身体の一部を自分のものではないと認識して、これに対する抗体(自己抗体)をつくり免疫反応を起こしてしまうことがあります。関節リウマチでは関節を守る組織や骨、軟骨を外敵とみなして攻撃してしまうことで発症します。このような疾患を総称し自己免疫疾患と呼びます。関節リウマチは全身性の自己免疫疾患では最も頻度が高く、患者数が70-80万人程度と推定され、発生頻度は0.5~1.0%といわれています。また、30歳-50歳代の女性に多く、最近では高齢発症も増加しつつあり、高齢化社会を迎えているわが国では大きな問題となっています 3) 。
臨床症状としては微熱・体重減少・貧血、関節に起こる症状は朝のこわばり・関節炎・関節水腫(関節に水がたまること)が挙げられます。さらに間質性肺炎(間質の線維化により血液中に酸素が取り込まれにくくなる疾患)・胸膜炎(胸膜の間に胸水という液がたまる疾患)などを発症する場合もあります 2)。
関節リウマチを診断するために行われる検査として血液中の免疫グロブリンG(抗体)のFc部分に対する自己抗体であるリウマトイド因子測定が挙げられます。リウマトイド因子は関節リウマチ患者さんの血中に高頻度で出現しますが、ほかの膠原病(全身の血管や皮膚、筋肉、関節に炎症がみられる疾患)や肝疾患などでも陽性となる場合があります。その他の検査では環状シトルリン化ペプチド(CCP)とよばれる物質に対する抗体である抗CCP抗体測定があり、関節リウマチに対して特異性が高い検査です。抗CCP抗体は関節破壊度や骨破壊度とよく相関するため、予後予測に有用です 4) 。また、関節リウマチで早期から上昇する血中の関節破壊マーカーであるマトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)測定があります。MMP-3は関節リウマチ患者さんの関節液や血中に高濃度で存在し、関節破壊の程度や滑膜増殖を反映します 5) 。また、単純X線写真をはじめとする画像診断は必須です。
特異性は高くありませんが、関節リウマチを含めた自己免疫疾患で主に経過観察に用いられる赤血球沈降速度検査もあります。この検査は自己免疫疾患に特徴的な慢性炎症を的確に捉えることができます 6) 。しかし、この検査は炎症以外の様々な状態を反映するため、その解釈には注意が必要です。そのほかには、炎症や細胞・組織破壊が起こると血中に増加する蛋白質の一種であるC反応性蛋白(CRP)の測定も用いられます。CRPは炎症の早期マーカーとして用いられ、将来の関節破壊の進行をある程度予想することができ、現在の治療の妥当性を判断するのに有用です 7) 。
これらの検査は前述したように診断に用いられるだけでなく、経過観察に多用されます。関節リウマチを含む自己免疫疾患は完全に治癒することは難しく、対症療法が中心となっているためこれらの検査による経過観察が重要となっています 2) 。また、治療効果の判定に使用されており 5) 、当院の臨床検査部ではこれらの検査は即日報告が可能です。
最初にお話ししました朝のこわばりは関節リウマチやほかの炎症性関節炎でも起こりますが、適正な治療をすることで軽減します 8) 。今回のコラムで着目した関節リウマチは早期診断が可能となっており 9) 、このコラムを通して少しでも皆さんに知っていただければ幸いです。
免疫・臨床化学検査室 原澤彩貴
参考文献
- 1)藤 秀人:4.関節リウマチにおける病態の概日リズムと時間薬物療法.臨床薬理42(2):109-110.2011
- 2)新版 臨床免疫学 第3版.講談社
- 3)宮坂信之:関節リウマチ.日内会誌104(10):2110-2117.2015
- 4)川上 純:ペプチドシトルリン化,抗CCP抗体と関節リウマチ.臨床リウマチ20:91-92.2008
- 5)臨床検査データブック 2021-2022.医学書院
- 6)臨床検査学講座 第3版 血液検査学.医歯薬出版株式会社
- 7)堤 明人,住田孝之:Ⅱ.膠原病検査の進歩と診断・治療への応用.日内学誌92(10):11-15.2003
- 8)病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症.メディックメディア
- 9)松下 功:関節リウマチの疫学・診断・治療ガイドライン.Jpn J Rehabil Med57:1005-1010.2020
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