『どこで検査をしても同じ? 臨床検査の“標準化”とは』
2021年09月24日“標準化”とは、どこで検査しても同様の検査結果が得られるように基準となる物質や測定方法を定めることです。 “標準化”が進むことによって病院間における検査情報の共有が出来るようになり、より正確な診断が可能となります。そのため“標準化”はとても重要であると言えます。しかし現在でも一部の検査項目では未だに“標準化”が進んでおらず、病院間での情報共有が困難な項目も存在します。特に測定系に抗体を用いている免疫検査では、抗体の反応する部位が試薬によって異なることで同じ検査でも検査結果が大きく乖離してしまうことがあり、一般的な方法では標準化が困難とされているからです1) 。
このような“標準化”が困難とされていた検査項目も様々な方法で標準化に向けた取り組みが行われています。そのひとつとして最近標準化の方針が決定された甲状腺刺激ホルモン(TSH)検査が挙げられます。TSHは血液中で様々な形で存在するため、標準物質も標準測定法も定めることが難しい検査項目で、試薬によって検査結果に最大1.6倍程度の差があり、診療への影響が懸念されていました。これを受けて2017年に国際臨床化学連合(IFCC)甲状腺機能検査標準化委員会(C-STFT)ならびに日本臨床検査医学会標準化委員会は、ハーモナイゼーションという方法を用いて“標準化”する方針を決定し、2020年12月に一部の試薬に対する具体的な換算値を示しました。2,3) 。一般的な“標準化”が『標準物質・標準測定法を定める』のに対し、ハーモナイゼーションは『基準となる値(IFCC基準適合検査値)を定め、それに対して試薬毎に測定した検査結果を補正する』という方法です4) 。当院においてもこの方針に従って、2021年8月に基準範囲の変更を実施しました。
このように「どこで検査しても同様の検査結果が得られる」ために、様々な組織が協議し環境整備を行っています。また、“標準化”された試薬を用いても検査の手順が正しくなければ同様の検査結果を提供することが出来ません。そのため、当院検査部では国際規格「ISO15189(臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項)」を取得し、日常検査で正しい手順で検査が行われているかどうか、また、精度管理を実施することで他施設との間に差異が生じていないかなど品質管理に努めています。このように適切に管理された検査結果を臨床に報告することで、検査という立場から医療に貢献出来るよう日々業務に臨んでいます。
免疫・臨床化学検査室 加藤大樹
参考文献
- 1)中原一彦:「臨床検査の標準化」Cytometry Research vol.19 No.2、33-38,2009
- 2)菱沼昭:「甲状腺ホルモン測定の国際標準化とハーモナイゼーション」臨床病理 Vol.65 No.5 , 579-583 , 2017
- 3)「甲状腺刺激ホルモン (TSH) 値のハーモナイゼーションについて」日本甲状腺学会雑誌 Vol.11 No.1 , 40-42 , 2020,4
- 4)細萱茂実:「標準化とハーモナイゼーション」Medical Technology Vol.46 No.13 , 1404-1410 , 2018
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