日本人に身近な魚サケやマスに潜む寄生虫〜日本海裂頭条虫〜

冬になり寒くなってくると魚は脂が乗ってきて美味しい時期となってきます。その中でも昔から日本人に好んで食されているサケやマスからしばしば発見される(約30%前後)1)
日本海裂頭条虫という寄生虫をご存知でしょうか。日本海裂頭条虫と言われてもピンと来ない方も多いと思いますが、「サナダムシ」と言われれば聞いたことがあるのではないでしょうか。名前の由来は虫体が平たく幅の狭い紐「真田紐」(真田昌幸・幸村父子が考案?諸説あり)に似ているからだそうです。今回は、この日本海裂頭条虫と検査についてお話しします。

日本海裂頭条虫の感染例は2007年から2017年までの10年間で439件報告2) があります。現在、日本ではほとんど見られなくなった寄生虫症ですが、本症はサケやマスの生食文化の影響により、未だ根強く残っているようです。これまで感染地域はサケやマスがよく捕れる北海道や東北地方とされていましたが、現在では食の多様化と流通機構の発達により全国各地で認められるようになりました3)

日本海裂頭条虫とはどのような寄生虫なのか、そのライフサイクルを説明します(図1)。終宿主から排泄された虫卵が、河川や海など水中で孵化してコラシジウムになります。
次にプロセルコイド、プレロセルコイドと中間宿主を変えながら発育し名称が変わります。ケンミジンコ内のプロセルコイドがサケやマスに捕食されると、その後、筋肉内でプレロセルコイドに発育します(1~2cm、乳白色の細長い虫体)。たまたまこの段階のサケやマスが流通し市場に出ることがありますが、この虫体を除くか56℃以上に加熱する、もしくは−20℃以下24時間以上で冷凍後に解凍して食べれば問題ありません。つまり調理過程で処理が不完全な場合には感染のリスクが高まります4)
ヒトに経口摂取された場合、プレロセルコイドは、胃から小腸へ向かい腸粘膜で頭部を固着して生育、1日約10cm成長して約1か月で成虫となります。成虫は雌雄同体で虫体は数個から数千個の体節からなり、色は乳白色で全長5~10m、扁平で幅は最大で約10mm、頭部は小さく棍棒状です。(図2)成虫になると腸内で産卵を始めますが、その産卵数は寄生虫の中でも多くなんと1日約100万個とも言われ、虫卵は糞便と共に体外へ排泄されます5)

ところが、本症は感染しても無症状のことが多く、症状があっても腹部の不快感、下痢、腹痛を自覚する程度です。例えば、前述の症状が続いて病院を受診した場合、医師の問診で過去1か月程度の食歴(特に生食)、血液検査で好酸球が増えていたら、寄生虫感染が疑われます。
寄生虫感染を診断するには虫卵検査や虫体検査が行われますが、日本海裂頭条虫の場合は、排便時に虫体の一部が排泄されて初めて気づく方も多いようです6)。「肛門から何か白い紐の様なものが出てきた!」と驚いて患者さんが虫体を持参したら、その虫体を観察することで、直ちに本症の診断が出来ます。一方、虫体が無くても虫卵検査で糞便中に虫卵が検出されたら、それは腸内に成虫が存在していることを示しており、虫卵を鑑別することで本症を診断することが出来ます。

図1.日本海裂頭条虫の生活史
日本海裂頭条虫症 小児症例・生活環・治療・鑑別・感染源
近畿大医誌 42(3,4)引用改変

図2.日本海裂頭条虫の成虫
MSDマニュアル家庭版 条虫感染症 引用改変

写真1は顕微鏡で見られる虫卵の形態学的特徴です。色は褐色、大きさは約65~75×45~53µmで左右対称の楕円形です。卵殻は比較的厚く、卵蓋を有し(赤矢印)卵内容は卵細胞と多数の卵黄細胞が密に詰まっています7)

写真1.日本海裂頭条虫卵

前述したように日本海裂頭条虫は産卵数が多いため、少量の糞便をそのままスライドガラスに塗沫し顕微鏡で虫卵を観察する直接塗沫法で検出することが出来ます。この検査法は、最も基本的な寄生虫検査法であり、検体の特別な処理も不要で、手技も簡単なことから広く一般的に行われている検査法です。また、産卵数が不定期な時期は、より多くの糞便を用いて行う遠心沈殿集卵法と組み合わせることで検出率を高めています。

日本海裂頭条虫症の治療は、腸内から虫体を駆虫することになります。患者さんが駆虫薬と下剤を服用して腸内全ての糞便を排泄してもらい、この中から虫体を探し出し目視で頭部の有無が確認されれば駆虫完了となります6)

日本海裂頭条虫症の感染予防としては、やはりサケやマスの生食を控えることになります。生食を好まれる方にとっては多少食感が変わるかと思いますが、先述のようにきちんと調理された食材を食べることをおすすめします。

Vol.100,2021.9
一般検査室 佐藤和花菜
 

参考文献

  1.  環境変化と条虫症−特に日本海裂頭条虫(広節裂頭条虫症)について− 寄生虫学雑誌
    第43巻第6号 471-476,1994,12
  2. わが国における条虫症の発生状況 IASR Vol 38 p.74-76:2017年4月号
  3. 医療従事者のための医動物学 講談社サイエンティフィック
  4. 井碩孝博 他 日本海裂頭条虫症 小児症例・生活環・治療・鑑別・感染源(Med J Kindai Univ)第42巻3,4号115-1242・17
  5. 寄生虫学テキスト 第4版 株式会社 文光堂
  6. 福本宗嗣 裂頭条虫症G.1.Research vol. 14 no.4 2006 49(365) 
  7. 臨床検査シリーズ 最新2版 ヒトと動物の寄生虫鑑別アトラス—オールカラー

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