血液の工場「骨髄」の検査

“骨髄移植”や“骨髄バンク”など「骨髄」という言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。骨髄は文字通り骨の内部に存在しており、血液中の血球成分である赤血球、白血球、血小板を作っています。そのため骨髄は血液の工場とも言われます。今回のコラムではそんな骨髄の検査について、血液検査室が携わっている細胞の形態観察を中心にお話しいたします。

骨髄検査は骨髄での造血(血球産生)の状態や腫瘍細胞の有無を調べる検査であり、血液疾患が疑われる場合や治療効果を評価したい場合に実施されます。骨髄はスポンジ状の網目構造をしており、骨髄液という液体成分で満たされています。骨髄検査では骨髄液を採取する骨髄穿刺や骨髄そのものを採取する骨髄生検が行われ、一般的に骨盤の骨(腸骨)から医師が採取します。採取された検体は細胞の形態観察、遺伝子・染色体検査、細胞表面マーカー検査(フローサイトメトリー)など、目的に応じて様々な検査に用いられます。細胞の形態観察を行うためには骨髄液の塗抹標本を作製する必要があり、当院では臨床検査技師が検体の採取に立ち合って、標本作製をはじめとした検体の処理を行っています。患者さんの病態によっては骨髄液の吸引が困難なこともあるため、骨髄液が適切に採取されているか、量は十分であるかなどを医師と確認しながら検査を進めていきます。作製した標本は検査室で染色された後に臨床検査技師が顕微鏡を用いて細胞の形態を観察します。標本から得られた所見は臨床検査専門医によって最終チェックが行われた後、主治医に報告されます。では骨髄でどのような細胞が観察されるか、“血液のがん”である白血病を例に挙げながら、骨髄塗抹標本の写真とともに簡単にご説明します。

骨髄には全ての血球の元となる造血幹細胞が存在しており、この細胞が各血液細胞へと成熟(成長)し、十分に成熟した細胞のみが骨髄から末梢血液中へと出ていきます1)〈図1〉。そのため通常、骨髄には未熟な細胞から成熟した細胞まで様々な成長段階の細胞が認められます〈写真1〉。白血球は“核”を“細胞質”が覆うようにして構成されますが、写真1で紫色に染まっているのは白血球の核であり、細胞質に対して核が大きく楕円形なのが未熟な白血球(黄色矢印)、核がくびれて分かれている様にみえるのが成熟した白血球です(緑矢印)。また核が濃い紫色に染まっている細胞が未熟な赤血球(水色矢印)、一面に数多くみられるピンク色の細胞は成熟した赤血球です。白血病では造血幹細胞を含む未熟な血液細胞に異常が生じ、成熟や増殖に異常のある白血病細胞が出現します。白血病には大きく分けて急性と慢性がありますが、急性白血病では正常に成熟できない白血病細胞が無制限に増殖し、正常の血液細胞を作れなくなってしまいます1)〈写真2〉。正常の骨髄では様々な形態の細胞が混在しているのに対し、急性白血病では同じ様な形態を示す未熟な白血球が増殖していることがお分かりいただけるのではないでしょうか。一方、慢性白血病では様々な成熟段階の細胞が観察されますが、細胞増殖に異常があるため、明らかに白血球の数が多いのがお分かりいただけるかと思います〈写真3〉。

骨髄塗抹標本による形態観察では、各細胞の量や割合を評価しており、異常な細胞が観察された場合には細胞の大きさ、核構造、細胞質の色調や顆粒の有無など形態学的特徴を併せて報告しています。これらの検査所見は血液疾患の推定に有用であり、医師が診断を行う上で重要な情報となります。また治療経過に応じて骨髄検査を実施することで治療効果や再発の有無を判定するために役立ちます。

今回は白血病を例としてお示ししましたが、疾患によって血球産生の状態、腫瘍細胞の形態は様々です。そのため、骨髄塗抹標本の検査では様々な疾患を考慮しながら、注意深く標本を観察しています。骨髄検査に限らず、形態学的な検査では、診断や治療に貢献するために、一枚の標本から少しでも多くの情報を提供するように心掛けながら検査に臨んでいます。

Vol. 104, 2022. 5
血液検査室 下平貴大

参考文献

  1. スタンダード検査血液学 第4版 日本検査血液学会編

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