指定難病が尿検査でわかる!?
2022年09月07日ファブリー病という疾患をご存知でしょうか?少し前にドラマで取り上げられたこともあり、名前だけは聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
ファブリー病は、国で難病指定されているライソゾーム病*のひとつで、αガラクトシダーゼA (GLA)という酵素の遺伝子変異により発症する主としてX染色体劣性遺伝による先天性代謝異常症です。遺伝子変異によりGLAの欠損あるいは活性が低下すると、本来は分解されるはずの不要な糖脂質が細胞内に蓄積し進行的な組織障害が起こります¹⁾。従来から発症頻度は4万人に1人程度とされていましたが、近年の新生児を対象とした研究では約7千人に1人と報告されています²⁾。
ファブリー病は男性患者では「古典型」と「遅発型」に分類されます。古典型では小児期より手足の痛み、発汗障害などを初発症状として発症し、20歳以降より尿タンパクが陽性になり、30歳以降で心肥大や脳血管障害を来し、40歳以降では進行性の腎不全や不整脈が認められるようになります。手足の痛みは初発症状として重要であり、「燃えるように熱い」、「耐えがたい痛み」などと表現されることが多く、ファブリー病の自覚症状としては最も苦痛を伴う症状とされています。一方、遅発型では手足の痛み、発汗障害などを認められず、加齢とともに心肥大や腎不全が進行します。
女性患者では、小児期より手足の痛みなどを発症し腎不全に至る場合もあれば、60歳になり心肥大で発症するものまで臨床経過は様々です¹⁾。
ファブリー病を思わせる臨床症状や家族歴がある場合には、白血球GLA酵素活性の測定やGLA遺伝子を解析する検査により確定診断されますが、いずれの検査も実施できる施設が限られており、外部施設に検査を依頼した場合、結果が報告されるまでに時間がかかります。
これらの検査法に対し、近年ファブリー病患者の尿中に出現するマルベリー小体(写真1)や、マルベリー細胞(写真2)と呼ばれる特徴的な成分を尿沈渣検査で検出できることが注目されています。前者は渦巻き状構造を認める球状の成分で、後者はマルベリー小体を含有する細胞成分です³⁾。マルベリー小体およびマルベリー細胞はGLAの欠損により腎臓の細胞内に蓄積した糖脂質に由来する成分で、ファブリー病患者の尿中に特異的に出現します。ファブリー病における尿中マルベリー小体、マルベリー細胞検出の感度は82.4~96.6%、特異度は94.1%~100%⁵⁾⁶⁾、陽性率は63%⁷⁾と優れています。診断基準には入っていないものの、タンパク尿や腎機能障害を認めていない病初期でも確認されるため、早期診断のきっかけとなる重要な所見です⁴⁾。
尿沈渣検査は、尿を遠心分離器にかけて沈殿した成分を顕微鏡で観察する検査法で、全国どこの検査室でも日常検査として実施されており、速やかな結果報告が可能です。また、非侵襲的(痛みを伴わない)かつ安価に実施できるため、ファブリー病の早期発見に寄与するスクリーニング検査として非常に有用な検査法です。
治療法としては、点滴により欠損したGLAを補充する酵素補充療法やGLAに対する競合阻害作用を有する化合物の経口投与によりGLAの活性を高めるシャペロン療法が保険適用となっていますが、酵素補充療法は臓器障害が進行した場合では効果が乏しくなると言われており¹⁾早期発見と早期治療が重要になります。
まだまだ認知度が低い疾患ではありますが、このコラムをきっかけに皆様の理解が深まれば幸いです。
*ライソゾーム病:細胞内に存在する、古くなった物質を分解する場所であるライソゾームに含まれる消化酵素の1つが先天的に欠損していることにより多様な症状を呈する疾患
一般検査室 河本 希
参考文献
- 日本先天代謝異常学会:ファブリー病診療ガイドライン2020.診断と治療社,2020.
- Inoue T, Hattori K, Ihara K, et al:Newborn screening for Fabry disease in Japan:prevalence and genotypes of Fabry disease in a pilot study. J Hum Genet 58;548-552,2013.
- 唐澤一徳、横山貴、新田孝作:ファブリー病.臨床検査 vol.62 no.4 2018年4月増刊号;554-555,2018.
- 福田隆文、伊川泰弘、三村卓也ほか:尿中マルベリー小体が診断に有用だったFabry病3例.日本小児科学会会誌 123巻5号;866-872,2019.
- Selvarajah M, Nicholls K, Hewitson TD, et al:Targeted urine microscopy in Anderson-Fabry Disease: a cheap, sensitive and specific diagnostic technique. Nephrol Dial Transplant 26;3195–3202,2011.
- 堀田真希:ファブリー病を検出するための尿沈渣における尿中マルベリー小体の有用性.日本小児腎臓病学会雑誌 32;83,2019(抄録より引用)
- Hiroaki Y, Tomoko N, Takayuki H, et al:Urinary mulberry bodies as a potential biomarker for early diagnosis and efficacy assessment of enzyme replacement therapy in Fabry nephropathy. Nephrol Dial Transplant 37;53-62,2022.
投稿者:管理者
カテゴリー:未設定