グリーンネイルをご存じですか?
2022年09月26日今年の夏は、街を歩けば お洒落なグリーンのトップスやパンツを身に着けた人をよく見かけましたよね!?今年、流行のトレンドカラーは緑色だそうです。そんな緑色にちなんで、今回のコラムでは『グリーンネイル』についてお話ししようと思います。
皆さんは『グリーンネイル』って、聞いたことありますか?直訳すると『緑色の爪』ですが、いったい何のことなのでしょうか?
グリーンネイルとは手足の爪に緑膿菌(りょくのうきん)という細菌が付着して増殖し、爪が緑色に変色してしまう細菌感染症のことです。緑膿菌は細長い棒状の形をしていて、大きさは1.5~3.0µmほどです〈写真①〉。学名を「Pseudomonas aeruginosa」と表記します。特殊な色素を産生することで知られており、例えば、黄色色素のピオベルジン(pyoverdine)や、緑色色素のピオシアニン(pyocyanin)という物質です1⁾2⁾3⁾〈写真②〉。緑膿菌感染に伴い産生されるこの黄色や緑色の色素によって、爪が薄い黄色から緑色に変色してしまうのです4⁾。

では、緑膿菌は普段はどこにいるのでしょうか…?実は皆さんの身の回りの様々な場所に存在しています。土壌などの自然環境、特に水回りや湿気の多い環境を好む細菌です。他にもっと身近なところでいうと、トマトなどの野菜から検出されることもありますし5⁾、お腹の中(大腸など)にいることもあります。でも心配しないで下さい。もしも大腸に緑膿菌がいたとしても、それが必ずしも悪さをするわけではありません。日和見感染と言って、免疫力や抵抗力が低下した人が感染症にかかることはありますが、健常人は特に気にすることはありません。
次に、この緑膿菌がなぜ爪に感染してしまうのでしょうか。まず1つ目として考えられる原因は、爪が皮膚から剥がれて盛り上がり隙間ができてしまう、「爪甲剥離症」という爪のトラブルによるものです。剥がれた爪と皮膚の間に緑膿菌が入り込み、そこで繁殖してしまうのです。そして2つ目の原因としては、ジェルネイルをしている人で、お手入れが行き届いていない場合などに、爪の淵が欠けて割れていたり剥がれていたりすると、ジェル(付け爪)と爪の間に水が入り込んでしまい、水が大好きな緑膿菌がそこで増殖し感染症になってしまうのです。また、ジェルネイルに限らず、庭仕事で爪が割れてしまったことからグリーンネイルを発症するケースもあります。爪カンジダ症や爪白癬といった、真菌による爪の疾患がある場合にもグリーンネイルになり易いと言われています。ですから、グリーンネイルを防ぐには爪の健康を保つための衛生管理や、健康管理が非常に大切です。通常は人から人へ感染が広がることはありませんが、痛みや痒みといった自覚症状がほぼないため、初期は気付かないこともあり、軽度であれば自然治癒することもあるようですが、もしもご自身がグリーンネイルかも?と不安になったら、ぜひ皮膚科への受診をお勧め致します。
治療は症状にもよりますが、乾燥と消毒をしっかり行い、外用療法がまず行われますが抗菌薬を内服することもあります。完治までの期間は患者さんにより異なり、1か月程度の方もいれば、難治性の場合1年ほどかかる方もいます。緑膿菌を完全に退治することができれば、爪の生え変わりと共に色が正常に戻ります。
最後になりますが、身の回りに目を向けてみると私たちの住む世界には緑色の物が溢れていますね。ピーマンやホウレン草、キュウリなどのお野菜。公園の芝生や森林、はたまたJR山手線まで!皆さんも毎日の暮らしの中で緑色を目にした際は、このコラム『グリーンネイル』のことを少しでも思い出して頂けたら嬉しいです。では、ぜひまた臨床検査部のコラムに遊びに来て下さい!!
微生物検査室 今井 和花
参考文献
- 臨床検査学講座 臨床微生物学 編集 松本哲哉 医歯薬出版株式会社
- Q&Aで読む 細菌感染症の臨床と検査 監修 五島瑳智子 国際医学出版
- 検査と技術 感染症クイックリファレンス グラム陰性桿菌「Pseudomonas aeruginosa」vol.46 No.3 2018 医学書院
- Images in clinical medicine. Green nails. N Engl J Med 12;360:1125, 2009.doi: 10.1056/NEJMicm0706497.
- Unraveling the Role of Vegetables in Spreading Antimicrobial-Resistant Bacteria: A Need for Quantitative Risk Assessment Foodborne Pathog Dis 15;11:671-688, 2018. doi: 10.1089/fpd.2018.2501
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