アンバウンドビリルビンの検査について

近年、臨床検査は自動化が進んでいますが、手作業で検体と試薬を反応させる用手的検査もまだ行っています。今回はその中でもアンバウンドビリルビンの検査についてお話しします。

アンバウンドビリルビンは、あまり聞きなれない単語だと思いますので、まずビリルビンについてご説明します。ビリルビンとはヘモグロビンの構成成分であるヘムの代謝産物で、多くは老化した赤血球の破壊に由来します。赤血球の破壊によりできた間接ビリルビンは、血液中では、大半はアルブミンという蛋白質と結合して肝臓へ運ばれています。間接ビリルビンは肝臓でグルクロン酸抱合されて直接ビリルビンになり、胆汁として排泄されます。直接ビリルビンは腸内細菌によってウロビリノーゲンに変わり、大部分は便として排泄されますが、一部は腸管から再吸収され、肝臓に戻ります。新生児は成人に比べて間接ビリルビンの産生が多いため、アルブミンと結合することなく遊離した状態になるビリルビンが増加します。これは、新生児の赤血球数が成人に比べて多く寿命が短いため、多くの赤血球が短期間で破壊されることになり、間接ビリルビンが多くなるためです。また、新生児は肝臓で間接ビリルビンをグルクロン酸抱合する処理能力が低いため血液中に間接ビリルビンのまま残り、さらに腸から肝臓へのウロビリノーゲン再吸収量が多いため、ほとんどの新生児では生理的に肌や白目が黄色に染まって見える黄疸が出現します1)。先程述べました遊離したビリルビンをアンバウンドビリルビン(unbound bilirubin:以下UB)と言い、分子量が小さい物質であることから、毒物や病原体からの侵入を防ぐ役割を担う血液脳関門を通過して、神経組織などの様々な器官に作用して毒性を示します。そのため、ときには治療が必要な病的黄疸であることもあり注意が必要です。このビリルビンの動態を下図に示します(図1)。

このUBの神経毒性による脳障害をビリルビン脳症(核黄疸とも呼ばれます)と言い、しばしば早産児にみられる病気です。早産児は溶血性疾患や低アルブミン血症などの基礎疾患があることがあり、これがUBの上昇をもたらすので、正期産児よりもビリルビン脳症のリスクを高めると言われています2)

早産児ビリルビン脳症の発症を予防するための治療適応の判断には、総ビリルビン、UB、アルブミン、直接ビリルビンを測定します。生後日齢や出生体重により基準が変わりますが、測定結果を踏まえて総合的に治療が必要かどうか判断していきます。UB測定の保険点数は135点ですが、診察及び他の検査の結果から、核黄疸に進展するおそれがある新生児である患者に対して、生後2週間以内に経過観察を行う場合に算定されます。

UBの測定は、自動分析装置の操作とは異なり、用手的に1検体ずつ処理するため、テクニックが必要です。UBは光によって分解されてしまうため速やかに検査を始めます。測定原理としましては、検体と試薬を反応させることで、黄緑色のUBが無色のビリルビン分解物に変化し、この色の変化から物質の濃度を測定する比色法によってUB値を求めます。測定手順としましては、機器にセルと呼ばれる透明な容器を設置し、そこに決められた量の試薬と検体を入れ、よく混ぜてから色の変化を測定します。この際、検体20μLを20秒かけてゆっくりと入れることで、試薬とより均一に混ざり、ムラなく色の変化を測定できます。一般的なスポイトの1滴が約50μLですので半分以下の20μLがいかに少量かご想像いただけるかと思います。

患者さんの検体は全て貴重なものですが、中でも新生児は採血量が少ないため何度も検査をやり直すことができません。臨床検査技師は常に努力してその技量を高めているのみならず、予めUB値がわかっているコントロールサンプルを測定して正しい値が出ることが確認できた検査機器によってのみ、患者さんの検体検査を実施しています。今回は用手的検査でなければ測定できないUBの臨床的意義と臨床検査技師がいつも気を付けていることについてお話し致しました。

Vol.108,2022.10
臨床化学・免疫検査室 森 遥

参考文献

  1. 中村肇.新生児黄疸のすべて 基礎から臨床まで.メディカ出版 1994
  2. 奥村彰久ら.早産児ビリルビン脳症(核黄疸)診療の手引き.日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「早産児核黄疸の包括的診療ガイドラインの作成」班 2020

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