貧血のはなし

体の中を流れる血液量は平均で体重1kgあたり70mLであり、成人の血液量は4~5Lにもなります。その血液中に含まれる血液細胞は赤血球、白血球、血小板からなり、血液量の約45%を占めます。血液細胞の99%以上は赤血球で占められ、その主な役割は全身の細胞へ酸素を供給することです。正常赤血球は直径7~8μm、厚さ2μmの中央部分がへこんだ円盤状の形態をしているため、細い毛細血管内でも自由に変形して通過することができ、全身の至るところに酸素を運ぶことができます。しかし、徐々に膜の柔軟性が低下し、形状が球状化することによって変形能が失われ、肝臓や脾臓リンパ節において単球-マクロファージ系細胞に貪食され、120日ほどで赤血球は一生を終えます。

血液が赤く見えるのは、赤血球にヘモグロビンという色素があるためです。酸素の多い肺において二酸化炭素を放出し、酸素とヘモグロビンが結合して、酸素が必要な組織に供給することで全身の細胞を維持しています。WHO(世界保健機関)によると、貧血の指標であるヘモグロビン値(Hb)が成人男性では13g/dL、女性では12g/dLが貧血の基準となっており、これより値が低いと貧血が疑われます。赤血球が少なくなると全身に酸素を供給できなくなり、貧血の状態が進行して生命に危険が及ぶことになります。

「鉄」は、赤血球がヘモグロビンを合成するために生体にとって必要不可欠な金属元素です。体内において鉄の6~7割はヘモグロビンに含まれています。その鉄を多く含む赤血球が持続的な出血などで体外に失われてしまうと鉄の材料不足になり、ヘモグロビン含有量の少ない小型で菲薄な赤血球が産生されます。すると、酸素の運搬量も減るため貧血の状態となります(鉄欠乏性貧血)。1日の平均鉄摂取量は男性で約7.4mg、女性は約6.4mg程度ですが、20~40代女性は月経があるため目標摂取量は、他の年齢よりも若干多くなり10.5mgになります【厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年度版)」】。そのため、目標量の6割程度しか摂取できていないことになります。鉄の材料不足で十分な赤血球が作られず、この世代の半数以上が潜在的な鉄欠乏性貧血と言われています。

鉄欠乏性貧血のように鉄が足りなくなる以外にも、貧血になる原因はたくさんあります。
赤血球が正常に産生されても、様々な要因によって壊されてしまう溶血性貧血、ビタミンB12や葉酸の不足により大きな赤血球が作られてしまう大球性貧血、そもそも赤血球が作られないことによって起こる貧血もあります。
原因がなんであれ、貧血が起こると酸素の不足により頭痛やめまい、顔色などの蒼白や息切れなど体調不良が現れます。日々の食事で良質な栄養を取り、健康的な生活を送りたいものですね。

  • 鉄欠乏性貧血で見られる赤血球

    [鉄欠乏性貧血で見られる赤血球]
    大小不同の赤血球や、リング状になり薄くなっている菲薄赤血球などの赤血球が見られる。

  • 正常な赤血球

    [正常な赤血球]
    真ん中がくぼんだ、円盤状の形をしている。大きさは全て同じサイズをしている。

Vol.112,2023.2
血液検査室 森元明子

参考文献

  1. 病気が見えるVel.5 血液
  2. スタンダード検査血液学 第4版
  3. 日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書 (厚生労働省)
  4. 栄養素・食品群別摂取量に関する状況 (厚生労働省)

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