冬の食中毒の主役・ノロウイルス

ノロウイルスによる嘔吐・下痢などの胃腸炎症は12~2月にかけて流行のピークを迎えます。¹⁾これらの症状が続くと体力的にもダメージを受けるため、感染は避けたいものです。今回は冬季の食中毒の原因のおよそ80%を占めるノロウイルスについて、感染経路やその対策、検査方法をお話したいと思います。

ウイルスはとても小さく、その大きさは10~300nmしかありません。構造の観点からウイルスを分類すると、核酸(DNAまたはRNA)の周りの外皮タンパク質を覆う「エンベロープ」という殻を持つエンベロープウイルスとエンベロープを持たないノンエンベロープウイルスの2種類に分けられます。²⁾(図1)ノンエンベロープウイルスには、ノロウイルスやロタウイルスが分類され、エンベロープウイルスにはコロナウイルスやインフルエンザウイルス、ヘルペスウイルスが分類されます。

ノロウイルスの感染者から排出されたノロウイルスは下水処理を経て河川や海に流れ込み、二枚貝に蓄積されます。³⁾ノロウイルス感染を起こす代表的な二枚貝と聞くと、牡蠣が思い浮かぶかもしれません。しかし、実際には牡蠣を含む食品を介した感染は多くはありません。感染者の嘔吐物が床に飛散し周りにいる人がノロウイルスを含んだ飛沫を吸い込んでしまった場合や、感染者の便や嘔吐物が完全に取り除かれないまま乾燥しウイルスが付着した埃を吸い込んでしまった場合など、「人から人へ感染し、感染が拡大」する方がはるかに多いのが現状です。感染患者の嘔吐物や便にはウイルスが含まれている可能性があり、ノロウイルスは1,300-2,800個程度の粒子数でも感染が成立するとされます。⁴⁾1gあたり10億個のノロウイルスを含む糞便0.1gが100ccの水に溶けると、1ccあたり約100万個のノロウイルス量となり⁵⁾、ごくわずかなウイルス量でも感染するとても感染力が強いウイルスです。

嘔吐物や便からの飛沫感染や二次感染を防ぐためにも、処理する際は適切に感染対策を行う必要があります。新型コロナウイルスのようなエンベロープウイルスは、エンベロープがエタノール等の有機溶剤や石鹸などの界面活性剤に溶けるためアルコールによる消毒が有効です。しかし、ノロウイルスはエンベロープを持たないため効果がありません。そのため一般的にノロウイルスの活性を失わせる(失活化)に用いられることが多いのは、次亜塩素酸ナトリウムになります。消毒には次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする塩素系漂白剤を希釈して使用しますが、次亜塩素酸ナトリウムは目や肌への影響があるため手指消毒には使用できず、調製時や使用時には換気や家庭用手袋の着用が推奨されています。
牡蠣を経口摂取することによってノロウイルスに感染する場合も全くないわけではありません。一般的にウイルスは熱に弱いため、加熱処理を行うことで失活化させることができ、中心部が85~90℃で、少なくとも90秒間の加熱を行う必要があります。また、調理器具は専用のものを使用するか、使用のたび消毒することが望ましいとされています。¹⁾

では、ノロウイルスに感染してしまった場合、どのように診断するのでしょうか?病院の検査室では一般的に、イムノクロマト法による抗原検査が行われています。検査には、排泄された糞便・浣腸便、または直腸から直接採取した糞便を用います。嘔吐物や食品など、便以外のものでは検査ができません。採取された便を検体抽出液に浸し、試料を調製します。その試料を反応容器の試料滴下部に滴下します。毛細管現象により試料が反応容器上を移動し、一定時間経過後反応容器の判定部に出現するラインの有無で判定します。⁶⁾(写真1)

イムノクロマト法は、検査室だけでなく処置室やベッドサイドにおいても微生物の同定などに幅広く利用され、院内における臨床検査の迅速化に繋がっています。新型コロナウイルスに対しても同様のイムノクロマト抗原検査が行われており、特別な測定機器を必要とせず、わずかな時間で検査ができる身近な検査方法のひとつになっています。 しかしイムノクロマト法による抗原検査は、短時間で判定できるメリットもありますが、検出感度の問題などから抗原検査が陰性でも感染症を完全には否定できないというデメリットもあります。ノロウイルスの検査では、食中毒や集団感染の原因追及を目的として、行政機関や研究機関等では遺伝子検査も行われています。

日常生活において、感染するリスクはさまざまなところに潜んでいます。ノロウイルスにはワクチンがなく、治療法も症状を緩和させ、苦痛を和らげるための治療法である対症療法のみとなっています。感染経路を理解し、感染しないために日ごろからの予防対策が重要です。自分自身が感染しないため、万が一感染したときに感染を拡大させないために、このコラムをお役立ていただけると幸いです。

Vol.113,2023.3
血液検査室 大山敦子

参考文献

  1. 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html (Accessed on 2023.3.13)
  2. 東邦大学理学部生物学科「生物学の新知識」
    https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/0820.html(Accessed on 2023.3.13)
  3. 農林水産省「ノロウイルス食中毒と衛生管理対策」
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/gyokai/busitu/biseibutu/nov_base.html(Accessed on 2023.3.13)
  4. Atmar RL et al. Determination of the 50% human infectious dose for Norwalk virus. J Infect Dis. 2014;209:1016–1022
  5. 厚生労働省「食品に関するリスクコミュニケーション~ノロウイルス食中毒予防に関する説明会」
    https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/140304-1.html(Accessed on 2023.3.13)
  6. ノロウイルス抗原キット「イムノキャッチ-ノロ Plus」添付文書(栄研化学株式会社)

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