あなたの生活習慣はヘモグロビンA1cとグリコアルブミンが知っている!

病院の採血室で患者さんから「今日、採血があるから朝食をとらないで来たけど、血糖値が良くなっているかしら?」そんな言葉をよく耳にします。ご存じの通り血糖値は食事の影響で左右される検査項目です。
血糖測定は目的によって意味が異なります。10時間以上絶食した状態で検査する空腹時血糖値と、食事や時間を決めずに検査する随時血糖値があります。空腹時血糖値は食事の影響を受けないため診断や治療効果の判断に用いられ、随時血糖値は採血時点の患者さんの状態を把握するために用いられます。血糖値の1日の変動を横軸に時間、縦軸に血糖値のグラフ(図1)に置き換えると、食事の影響を受けるため一般的に1日の生活の中で3度のピークが見られます(図1①)。このピークは間食をすることによってピークの高さやピークの数が増えます(図1②)。また、血糖値が高い状態が続くとグラフの面積が増えます(図1③)。血糖測定はそのグラフ上の1点を示しています。そのため患者さんの血糖値の変動幅を把握することはできません。そこで、このピークの高さを平均化して過去の平均的な血糖の変動幅を調べる検査にヘモグロビンA1c(以下HbA1c)とグリコアルブミン(以下GA)があります。

HbA1cは赤血球が血管の中を循環し、赤血球とグルコースが結合する糖化を利用した検査です。赤血球は骨髄で産生され、成熟赤血球として約4ヶ月間体内を循環した後、寿命を迎えると脾臓や肝臓、マクロファージによる貪食と崩壊を受けます。このことから採血した血液中には若い赤血球から老化した赤血球までのさまざまな赤血球が混在するため、糖化を受けた赤血球の指標であるHbA1cは約1-2か月前から現在までの平均的な血糖値を反映していると考える事ができます。HbA1cの基準値は4.6〜6.2%であり、基準値より高いほど 約1-2か月前から現在までの平均的な血糖値が高い状態にあると言えます。
GAは血液中のタンパク質の主要成分であるアルブミンがグルコースによって糖化を受けて結合したものを指します。アルブミンは主に肝臓でつくられ、血液中にあるタンパク質の約60%を占めており、血管中の血液量や体内での水分の量を調整する重要な働きをしています。このアルブミンの半減期は約17日ですので、GAを測定することで約2週間前から現在までの食生活状態が反映できるとされています。GAの基準値は11〜16%であり、基準値より高いほど 約2週間前から現在までの平均的な血糖値が高い状態にあると言えます。GAは生活習慣を改善することで早期に反映される検査項目であり、HbA1cに比べてより短期間の血糖変動状態をとらえることができます。そのため糖尿病の比較的短期間における悪化などの病態をとらえる時に使用されます。HbA1cやGA を下げるためには先程のグラフのピークの数(図1②)やピークの高さ(図1②、③)を抑え、面積を狭くする必要があります。それには適切な食事管理と適度な運動を行う継続的な努力が必要となります。

血糖値は糖尿病の診断に最も重要な検査であり、些細な事でも要因となり測定値に影響を及ぼすことがあります。採血する際に患者さんは、「怖い!」「痛いかな?」と採血行為に不安を覚えストレスとなります。このストレスによってストレスホルモンであるエピネフリンやコルチゾールが放出され血糖値を上げる要因となります。そのため採血者は患者さんと会話でコミュニケーションをとり気持ちを落ち着かせます。採血後は検体をよく攪拌し、検査部へ搬送されて速やかに測定されます。採血後から測定までに時間がかかると赤血球が壊れる溶血が起こる事があります。この溶血によって血糖値は偽高値の影響を受け、HbA1c 、GAは偽低値になる事があるため迅速な測定が必要です。血糖、HbA1c測定の場合は採血管内に抗凝固剤である粉末状のフッ化ナトリウムが含まれているものを使用します。フッ化ナトリウムは細胞内に働き、グルコースをエネルギーに変換する機能を抑制する作用があります。しかしながら十分に抑制できるわけではありません。そのため採血後の検体はすぐに検査部へ送られ、遠心分離され迅速に測定が行われます。

次に測定装置についてどのように管理されて測定を行っているのか覗いてみましょう。当検査部で使用している全ての測定装置は始業時に必ず装置が正しく稼働しているか値付けされている試料(コントロール)を用いて測定し、結果が許容範囲内なのか確認(内部精度管理)を行ってから検体測定をしています。許容範囲外の場合は、原因が装置なのか試薬なのか対処・確認してから測定を行います。また、日本医師会や日本臨床検査技師会で行われる検査施設を対象とした、各施設共通条件で同じ試料を用いた外部精度管理に参加することで、他施設と同じ測定結果が出ることを確認しています。さらに2017年3月に国際標準化機構によるISO 15189「臨床検査室‐品質と能力に関する特定要求事項」の認定を取得して、厳密な管理下で測定を行っています。当検査部では、採血室や病棟で採血した時点から検査結果が出るまで上記のように、検体や測定装置の管理に徹底し、測定結果の正確性と信頼性の向上に努めています。

糖尿病ガイドラインによると、糖尿病の診断基準は(1)早朝空腹時血糖値126mg/dL以上(2)随時血糖200mg/dL(3)75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)200mg/dL以上(4)HbA1c6.5%以上とされており、GAは糖尿病の診断基準には含まれず目標値は設定されていません。HbA1cは、糖尿病ガイドラインにおいて診断基準がありますが、透析患者や血液疾患、溶血性貧血、鉄欠乏性貧血などの赤血球寿命に影響を及ぼす状態では正確な値を知る事ができません。そのため、HbA1c測定に影響を及ぼす状態の患者さんにとってGAは有用な検査項目です。しかしながらGAは、肝機能障害や甲状腺機能障害などアルブミン代謝に影響を及ぼす状態では測定値に注意が必要となります。HbA1cとGAのメリットとデメリットを理解し、臨床医と相談して測定することが大切です。

健康診断や病院の採血結果における1回の血糖値で安心することは禁物です。血糖値の他にHbA1cやGAを組み合わせて検査することで、過去に遡って血糖値の状態を把握することが出来ると共に、薬物療法、食事療法、運動療法の効果を知ることができます。今回のコラムによって、血糖値の状態をより適確に把握できる項目があることを知っていただければと思います。

Vol.114,2023.6
臨床化学・免疫検査室 居附奈央
 

参考文献

  1. 糖尿病治療ガイド2022-2023 日本糖尿病学会
  2. 臨床検査法提要 2020 福村直樹
  3. 臨床検査データブック 2021-2022 医学書院
  4. 標準採血法ガイドライン 2019 日本臨床検査標準協議会

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