カンピロバクターによる食中毒
2023年07月05日例年、蒸し暑くなってくると食中毒が話題になります。厚生労働省の「令和4年(2022年)食中毒発生事例」によると食中毒の主な原因物質はアニサキス、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、ノロウイルスの順になっています1)(図1)。

今回、細菌による食中毒で1番発生事例の多いカンピロバクターについてお話したいと思います。
カンピロバクターは動物の腸管内に生息し、東京都が調査したところ流通している鶏肉の4~6割にカンピロバクターが付着していたとの報告もあります2)。
感染は鶏レバーやささみなどの刺身、鶏肉のタタキなどの半生または加熱不足の鶏肉料理からの感染が増えています。感染してから症状が出るまでの時間を潜伏期間といいますがカンピロバクターは2~7日で他の食中毒と比べ長い傾向があります。
症状は下痢や腹痛、発熱、嘔吐、倦怠感などがあり、便性状は水様便や粘液便、血便となることもあります。
下痢などの症状は1週間程度で収まることが多いですが、腸炎が完治してから数週間後にギラン・バレー症候群という末梢神経の病気の発症がみられることが知られています。発症頻度はカンピロバクターに感染した患者1000人に1人位の割合ですが、感染後1か月くらいしてから脱力、手足のまひや顔の筋肉の麻痺、呼吸困難などを起こすことがあるので注意が必要です。3)
カンピロバクターの食中毒が疑われる時には、便の培養検査が提出されます。まず、グラム染色を行い、菌の形状を確認します(写真1)。通常細菌は棒状(桿菌)、球状(球菌)という形のものが多いですが、本菌はらせん菌といわれ、カモメが翼を広げたようにも見えるためgull wing(カモメの羽)といわれる特徴的な形態を示します。(写真2)。この特殊な形状を利用しコルクスクリューのように回転しながら進みます。

また、通常大気中の酸素濃度は20%位ですが、酸素が無くても多くても増殖できず、5~10%の微好気といわれる特殊な環境が必要です。そのため、検体を特殊な容器に入れ酸素濃度を調整する試薬を使用して培養します。また、便は(写真1)のように腸内細菌目細菌などが多数存在するため、カンピロバクターを分離するために当院ではこの菌を選択して発育させるCCDA寒天培地という特殊な培地を使用しています。大腸菌などは1日培養すると発育してきますが、カンピロバクターは増殖速度が遅いため、2日間かけ発育します。灰白色の直径1~2㎜位の湿った感じの発育(▲)と培地上を這うような遊走といわれる発育も見られます(赤丸部分、写真3)。

カンピロバクターによる食中毒を防ぐには、以下の対策が有効とされます。4)
- 生又は 加熱不十分な鶏肉や鶏レバー、牛レバーを食べない。とくに鶏肉などの食肉は、十分な加熱(中心部を75℃以上で1分間以上)を行う。
- 生の鶏肉や牛・豚レバーなどを調理した後は、手指や調理器具を十分に洗浄する。
- 調理器具や食器は、熱湯で消毒し、よく乾燥させる。
- 保存時や調理時に、肉と他の食材(野菜、果実等)との接触を防ぐ。
- 未殺菌の飲料水、野生動物などにより汚染された環境水を摂取しない。
次回のコラムは今回お話しましたカンピロバクターと関連深いギラン・バレー症候群がテーマです。
参考文献
- 厚生労働省「食中毒統計資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html - 東京都福祉保健局「食品衛生の窓」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/campylo/report2a.html - 愛知県衛生研究所
https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/campylobacter.html - 食品安全委員会ホームページ「カンピロバクター(ファクトシート)」
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_campylobacter.pdf
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