サワガニにまつわる寄生虫
2023年10月03日みなさんは川で採れるサワガニ、モクズガニに寄生する肺吸虫という寄生虫をご存知でしょうか。世界で人間に寄生する肺吸虫は7種類ありますが、日本でみられるのはウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種のみです¹⁾。わが国で1986年〜2005年までの肺吸虫症診断数は200件以上あり、そのうち95%はウエステルマン肺吸虫による感染です²⁾。
2011年〜2014年の間、千葉県で行われたサワガニの調査では230匹中217匹がウエステルマン肺吸虫に寄生されていたとの報告があり³⁾、近年でもウエステルマン肺吸虫による感染例が年間40〜50件程発生していると推測されています⁴⁾。
今回は肺吸虫のうち感染報告数の多いウエステルマン肺吸虫についてお話していきます。
ヒトへの感染は淡水のカニ類、イノシシ肉の生食によるメタセルカリアの経口摂取で起こります(図1)。終宿主(a)であるヒトに侵入したメタセルカリアは、約2ヶ月かけて小腸から腸壁を貫通し腹腔へ出て胸腔から肺へ移動し肺組織で成虫になり産卵します。虫卵は喀痰や糞便とともに水中へ排泄された後、2〜3週間で孵化してミラシジウムになり、第1中間宿主(b)のカワニナの中でスポロシスト、レジア、セルカリアと成長します。カワニナが第2中間宿主(b)のモクズガニやサワガニに捕食されると、エラや筋肉内でメタセルカリアに成長し感染の機会を待ちます¹⁾。また、待機宿主(c)であるイノシシがメタセルカリアを有するカニを捕食してもメタセルカリアは成虫にならず、そのまま筋肉内に留まるので、イノシシ肉を生食することでも感染する可能性があります。
図1.ウエステルマン肺吸虫の生活史(臨床検査部 佐藤作製)
肺吸虫による感染が疑われる場合、喀痰や糞便(嚥下され、しばしば糞便中にも虫卵が排泄される)が提出されます。当検査室では寄生虫の虫体・虫卵検査を行っており、提出された検体を標本にして顕微鏡で観察することで、寄生虫感染の有無や寄生虫の種類を調べています。検査方法としてスライドガラスに検体を直接塗沫して顕微鏡で観察する直接塗沫法、または検体中の不純物などを取り除く処理を行い遠心分離(2000rpm 5分間)して沈殿させた検体を顕微鏡で観察する遠心沈殿集卵法があります。
写真1は顕微鏡で見られるウエステルマン肺吸虫卵です。形態学的特徴として卵殻は黄金色で左右非対称、大きく平らな卵蓋を持ち(矢印)反対側の卵底部は厚みがあります。
写真1 ウエステルマン肺吸虫 文献5から引用⁵⁾
予防法としては淡水のカニ類やイノシシ肉の生食を避けることです。これらの食材を食べる際は55℃5分以上の加熱処理または-18℃100分以上で冷凍処理することが有効となります。⁶⁾また、二次汚染を防ぐため、食材を触った後の手洗いを徹底すること、食材に触れた包丁やまな板など調理器具の洗浄・消毒も必要です。
一般検査室 佐藤和花菜
参考文献
- 医動物学 改訂7版 南山堂
- 平成22 年度食品安全確保総合調査「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」
https://www.fsc.go.jp/chousa/sougouchousa/chousa_kadai.html - 千葉県勝浦市小羽戸地区のサワガニにおけるウエステルマン肺吸虫メタセルカリアの感染状況 坂西梓里ほか(Med.Entomol.Zool.Vol.69 No,1 p.1-5 2018)
- わが国における肺吸虫症の発生状況(IASR Vol.38 p.76-77:2017年4月号)
- 喀痰の鏡検で診断されたウエステルマン肺吸虫症の1例 田中希宇人ほか(日呼吸誌p633-636 2013)
- 肺吸虫の感染を予防するためのサワガニ冷凍条件の検討 杉山広ほか(Clinical Parasitology Vol.23 p57-59 No.1 2012)
投稿者:管理者
カテゴリー:未設定