血球がなくなる貧血、「再生不良性貧血」について

健康診断は生活習慣病をはじめ、さまざまな疾患の早期発見に繋がることがありますので、自覚症状がなくても定期的に受診することが推奨されています¹⁾。健康診断で行われる血液検査には肝機能、コレステロール、血糖など多くの項目がありますが、末梢血一般検査もそのひとつです。末梢血一般検査には、白血球・赤血球・血小板という3種類の血液細胞成分の数や、ヘモグロビン濃度、血液中に含まれる赤血球の容積の比率を示すヘマトクリット値などが含まれます。
今回お話する再生不良性貧血は貧血の一種です。貧血とは成人男性では13g/dL、成人女性では12g/dL未満と定義とされており、白血球数や血小板数の多寡は貧血の定義に含まれません。しかし、再生不良性貧血では赤血球数とヘマトクリット値が減少し、ヘモグロビン濃度は10g/dL未満になることがあるばかりではなく、白血球数や血小板数も減少し、血小板数が10万/μL未満にもなります²⁾。貧血には動悸や息苦しさなどの症状がありますが、再生不良性貧血は他の貧血と違い白血球や血小板も減少することから、貧血症状以外にも血小板数が減少することにより出血傾向がみられ、進行した場合血が止まらないなどの自覚症状が出現します。

すべての血液細胞は骨髄に存在する造血幹細胞から作られており、各細胞の前駆細胞に分化したあと、成熟細胞となり末梢血へ流れていきます。(図1)³⁾

図1:造血幹細胞から各細胞への分化

赤芽球前駆細胞に障害が起きた場合、骨髄ではそれ以降の分化がされなくなります。その結果、末梢血では赤血球減少をきたしますが、白血球や血小板は前駆細胞が違うため、異常は認められません。同様に顆粒球系前駆細胞が障害されると、顆粒球系の細胞だけが減少し、巨核球系前駆細胞が障害されると血小板数のみが減少します。再生不良性貧血はこのすべての細胞のもとである造血幹細胞に障害が起こることにより血液細胞が十分に作れず、赤血球・白血球・血小板のすべての血液細胞の数が減少してしまいます。
末梢血一般検査や自覚症状から造血能の低下が疑われた場合、血液検査室では白血球分画や骨髄検査などの精密検査を実施します。下に当院の骨髄検査で得られた骨髄標本の写真を示します。再生不良性貧血の標本において血液細胞数が正常に比較し、少ないことがわかります。

  • 写真1:正常成人の骨髄標本

    写真1:正常成人の骨髄標本

  • 写真2:再生不良性貧血患者の骨髄標本

    写真2:再生不良性貧血患者の骨髄標本

写真1の正常成人の骨髄標本では、〇で囲んだ血液細胞(緑-顆粒球系細胞、青-赤芽球系細胞)が多数確認できるが、写真2の再生不良性貧血患者の骨髄標本では矢印で示した3個しか認められず、骨髄内の血液細胞が少ないことがわかる。(当院の骨髄検査で得られた骨髄標本より)

再生不良性貧血は、厚生労働省が定めている指定難病のひとつです。2004年から2013年の10年間の罹患数は10,500(年間約1,000人)、1年間で新たに罹患する人数は100万人当たり8.3人前後であり4⁾、その多くは後天性に生じます。先天性の再生不良性貧血はごくまれな疾患で、生まれつき遺伝子の変異があることで発症し、この疾患を初めて記述した医師の名に因み、ファンコニ貧血と名付けられています。それに対し、後天性は薬剤、化学物質、放射線、妊娠、肝炎などが原因になることもありますが、90%は原因不明で発症します。原因不明な再生不良性貧血が起こるメカニズムの大多数はリンパ球が自分自身の造血幹細胞を攻撃することで造血幹細胞が減少し、その結果血液細胞の産生が抑制される自己免疫疾患と考えられています。白血球は細菌やウイルスの感染を防ぐための免疫という仕組みを担っていますが、何らかの原因でこの仕組みが変化し、白血球の1種であるリンパ球などが自分自身を攻撃するようになるものです。そのほかには、造血幹細胞そのものに異常があり、そのため血球細胞が産生されなくなると考えられています4⁾

今回ご紹介した再生不良性貧血のように、検査値を見ることによって自覚していない隠れた疾患に気づく場合もあります。早期発見のためにも、定期的に健康診断を受診することをお勧めします。

Vol.120,2023.11
血液検査室・大山敦子

参考文献

  1. 厚生労働省「健診・保健指導のあり方」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/index.html (Accessed on 2023.11.22)
  2. 再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和 4 年度改訂版
    http://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2022/Aplastic_Anemia.pdf (Accessed on 2023.11.22)
  3. 日本検査血液学学会:スタンダード検査血液学 第4版,2021
  4. 難病情報センター「再生不良性貧血(指定難病60)」
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/106(Accessed on 2023.11.22)

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