膀胱炎-季節の変わり目に注意!-
2024年03月29日「膀胱炎」という疾患を1度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。季節の変わり目は、膀胱炎に注意が必要です。その理由として、気温や気圧の差により身体の体温調節機能がうまく働かず、抵抗力の低下や、かくれ脱水 ¹⁾が起きていることが挙げられます。脱水により尿量が減少すると、皮膚の常在菌や大腸由来の細菌が尿道から体内に侵入してきた際に、排尿と同時に体外へ排出できず、膀胱内で繁殖するため膀胱炎を発症するリスクが高まります。今回は、膀胱炎についてお話しします。
【膀胱炎ってなに?】
膀胱炎とは尿路感染症のうち、下部尿路(図1緑色)である膀胱に細菌が侵入、繁殖し、生じた感染症のことを言います ²⁾。膀胱炎は、明らかな基礎疾患が認められない単純性と、基礎疾患を有する複雑性に分類されます。急性単純性膀胱炎は性活動期女性に発症することが多く、複雑性膀胱炎は基礎疾患を有する小児や高齢女性、男性に発症頻度が高いと言われています ³⁾。複雑性膀胱炎の基礎疾患としては、前立腺肥大症、膀胱癌などの尿路系疾患と、ステロイド内服中や尿道カテーテル留置などの感染防御能低下の際にも発症します。
臨床症状は、排尿時痛、残尿感、頻尿、下腹部痛や違和感などがあり、通常発熱は認めません。
正常の尿の色調は淡黄色で透明ですが、膀胱炎では多数の白血球や細菌増殖により膿尿や血尿が見られることがあります(写真1)。
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図1
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写真1
【膀胱炎が疑われるときに行う検査】
膀胱炎の診断に尿検査は必須であり、膀胱炎が疑われるときには後述の検査を順に行いますが、検査の目的や患者さんの病態に応じ、採尿時間や採尿方法を選択する必要があります ⁴⁾。採尿時間は早朝尿が望ましいとされていますが、止むを得ない場合(起床後に排尿済みなど)は随時尿が用いられます。いずれも常在菌混入を避けるために採尿方法は中間尿が推奨されています(表1)。また、正確な検査結果を出すためには、採尿前にも手を洗い、陰部の清拭を行ってから採尿することも大切です。

表1
①尿定性
尿定性は、薬剤のついた試験紙に尿を染み込ませ、試験紙の変色の度合いから陰性、陽性を評価する検査です(写真2、図2)。検査手技が簡便なため、学校検尿や健康診断などのスクリーニング検査としても用いられています。膀胱炎の場合、尿白血球と尿亜硝酸塩が陽性になることに加えて、炎症により膀胱粘膜が出血し、尿潜血反応や尿タンパクも陽性になることがあります。尿亜硝酸塩は、食物由来の硝酸塩が細菌によって還元されて亜硝酸塩を生成する反応を利用して、尿中細菌の有無を調べています。ただし、尿中細菌が硝酸塩を還元するのに約4時間必要であることに加えて、還元作用を持たない細菌も存在するため、尿中細菌が存在していても陰性となる場合(偽陰性)があり注意が必要です。

写真2・図2
②尿沈渣
尿沈渣は、尿を遠心分離機にかけて、尿に含まれる成分を沈殿させ、顕微鏡で沈殿物の中にどんな成分が出ているか調べる検査です(写真3)。尿定性で尿白血球や尿亜硝酸塩、尿タンパク、尿潜血反応が陽性となった場合や尿亜硝酸塩の偽陰性の可能性がある場合は、より一層注意深く尿沈渣成分を観察します。膀胱炎では、白血球(図3灰色)や細菌(図3緑色)の他に赤血球(図3黄色)などが観察されます(写真4)。

写真3
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写真4
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図3
③尿培養検査
尿培養検査は、尿路感染症の原因菌の種類、およびその細菌にどのような薬剤が有効かを調べる検査です。急性単純性膀胱炎は原因菌の80%が大腸菌のため尿培養検査は必ずしも行いませんが ⁵⁾、複雑性膀胱炎の原因菌は多岐にわたるため必ず行います ⁶⁾。この検査では多くの場合、中間尿もしくはカテーテル尿(表1)を採取し、検査室で細菌を培養させます。中間尿の場合は生菌数≧10⁵CFU※2/mL、カテーテル尿の場合は生菌数≧10³CFU/mLの時に有意細菌尿とされます。
※2 CFU(Colony Forming Unit)とは1mL中に10³個の細菌の集団(コロニー)が存在するという意味です。
【膀胱炎の診断と治療、予防策】
膀胱炎の診断は、臨床症状と検査所見から医師が総合的に判断して治療に入ります。治療は、原因となっている細菌に対して有効な抗菌薬を服用し、細菌を死滅させることです。そして、予防策はこまめな水分摂取や排尿を我慢しないことに加えて、睡眠を十分に取り疲労やストレスをためないことが大切です。
一般検査室 小川すみか
参考文献
- https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column20130425.html
暑くなる季節・・「かくれ脱水」に要注意!!.迫屋舞 - 山辺 拓也.膀胱炎.臨床検査 vol.62 no.4. 2018年4月増刊号.497-499
- 山本新吾ほか.JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015—尿路感染症・男性性器感染症—
- 池田和博.一般検査技術教本.丸善出版株式会社.令和5年1月30日.7-11
- 東郷容和.尿路感染症 膀胱炎.腎と透析. Vol.81 No.4.573-576
- 石川清仁.膀胱炎.臨泌 71 巻4号.2017年増刊号.179-180
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