白血球のはたらき~好中球のお仕事~
2024年11月01日体の抵抗力が弱かったり、傷口が大きかったり様々な原因で細菌やウイルスに感染します。その中でも、細菌が体内で増殖し続け、生命を脅かすほど過剰な生体反応を起こし、各臓器に障害が出た場合「敗血症」といわれるとても重篤な状態になります。¹⁾敗血症は世界的に健康上の脅威であり、死亡、障害、医療費支出の主な原因となっています。世界中では1,100 万人の敗血症関連死亡があり、これは全世界の死亡者数のおよそ20%を占め²⁾、2023年にベルリンにて敗血症に関する世界的行動の再活性化を求める緊急声明(敗血症ベルリン宣言)が出されました。³⁾また細菌が体中をめぐり、「血液の中に細菌が存在する状態」を「菌血症」と言い、敗血症の69%が菌血症を合併するといわれています⁴⁾。そのため、菌血症の早期発見が敗血症を早期治療するための重要なポイントとなり、それには白血球像を入念に観察することが重要です。
血液の中に存在する血球、赤血球・白血球・血小板のうち、傷口等から体内に侵入した病原体や異物から体を守っている主役が白血球です。白血球には顆粒球系、貪食細胞である単球系、ウイルス感染や腫瘍細胞の除去に関わるリンパ球系の3つに分類されます。
顆粒球系とは細胞質に豊富な顆粒を有する白血球で、好中球・好酸球・好塩基球があります。好中球は白血球全体の2/3を占め、細菌や真菌の感染の際に作用します。好中球には炎症巣に移行するために血管内皮に「接着」し、血管から組織へ入り炎症巣に移行する「遊走」、細菌などの異物を細胞内に取り込む「貪食」など、感染防御や異物を除去するための機能が備わっています。⁵⁾
細菌感染時は迅速に大量の好中球が感染巣に送り込まれます。血球を造る場所である骨髄では好中球の産生が亢進し、白血球の90%以上を好中球が占めることもあります。⁶⁾また、好中球は数個の病原体を貪食すると死滅するため、細菌感染時には好中球の需要がさらに高まり、一時的に未熟な好中球も末梢血液中送り込まれます。
白血球を観察するためには、血液を標本にする必要があります。当検査室では採血した血液で標本を作製し、メイグリンワルド・ギムザ染色(MG染色)で染めることにより無色透明な白血球の核と顆粒を染めます。ピンク色や紫色などに染めわけられた細胞を顕微鏡下でみることにより、白血球を好中球・好酸球・好塩基球・単球・リンパ球に分類し割合を出しています。正常時では好中球は写真1のように見えますが、細菌感染の際には未熟な好中球や、まれに細菌を貪食した好中球を確認することもあります(写真2)。
菌血症の診断は通常、菌の発育を促す専用のボトルの中に血液を入れ、細菌を増やして原因菌を特定する「血液培養」を行い、結果が出るまでに約3-7日を要します。しかし、採血当日に作製した標本で貪食を確認できた場合、通常より早期に菌血症と診断でき、速やかに抗菌薬を投与することが可能となります。
好中球をはじめとする血球を観察することは、異常細胞の有無や白血病のような造血器腫瘍だけではなく、今回お話しした感染症・菌血症の診断にも有効となります。好中球は様々な機能を備えており、生体の感染防御の中心的な役割を担っています。正常とは異なる細胞を見つけ、その特徴や機能、異常などを目視で確認することは、とても重要な検査です。検査結果を臨床にフィードバックし、診断や治療に役立てることが私たち臨床検査技師のお仕事です。
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写真1 正常時の白血球(MG染色:×600)
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写真2 細菌感染時の白血球(MG染色:×600)
血液検査室 森元明子
参考文献
- 敗血症情報サイト【敗血症.com】日本集中治療医学会 (xn--ucvv97al2n.com) (Accessed on 2024.10.04)
- 敗血症 | 公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp) (Accessed on 2024.10.04)
- 敗血症ベルリン宣言 (xn--ucvv97al2n.com) (Accessed on 2024.10.04)
- 日本版敗血症診療ガイドライン2020
- スタンダード検査血液学 第4版 医歯薬出版株式会社
- 病気がみえるVol.5血液 第3版 メディックメディア
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