結核は過去の病だと思っていませんか?

結核の現状

WHOの「世界結核報告書2024」によると、新たに世界で結核と診断された患者数は2022年約750万人から2023年約820万人に増加しています1)。日本はWHOによる「結核低蔓延国」の基準である「罹患率10人未満」の指標を2021年に満たし、2022年には8.2となっているものの(表1)2)、近年のグローバルな人の移動に伴い日本における外国生まれ新規登録結核患者数は増加し、なかでもフィリピン、ベトナムなどの近隣アジア諸国生まれの方々が多くを占めている点に注意が必要です。

結核とは

結核は人類の歴史とともにある古い病気で、1882年にロベルト・コッホによって発見された長さ2-10ミクロン、幅0.3-0.6ミクロンの細長い結核菌(Mycobacterium tuberculosis =ヒト型結核菌)という細菌に感染して生じる病気です。日本では明治以降の産業革命による人口の集中に伴って国内に蔓延し、「国民病」と呼ばれました。結核菌は乾燥に強く咳やくしゃみの飛沫(しぶき)まわりの水分が蒸発した状態の飛沫核(ひまつかく)になっても生き続けることができます。飛沫核はとても軽いため地面には落下せず空気中に漂い広範囲に広がってヒトに感染します。ヒトの体内に入った結核菌は免疫反応により免疫細胞のマクロファージに食べられてしまいますが、菌の一部はマクロファージ中に冬眠状態で何十年も生き続けます3)。そのため身体の免疫力が低下すると菌が再び活発化して結核を発症することがあります3)4)。肺に病巣を作る肺結核が最も多く見られますが、肺に感染した結核菌が血液やリンパ管に侵入して全身に運ばれた状態を粟粒(ぞくりゅう)結核といい、腎臓、肝臓、骨関節、髄膜などさまざまな部位に病巣が形成されます5)6)
結核は感染症法で二類感染症に分類されているため、診断がついた場合には医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。結核を予防するためにはBCGワクチンが有効で、日本では生後5か月~8か月の期間に1回の接種を行っています4)

結核診断の過程

2週間以上長引く咳や痰、発熱、体重減少などが肺結核の患者さんによく見られる症状です6)。喫煙習慣がある、糖尿病や悪性腫瘍などで免疫力が低下している、結核感染の既往がある場合は結核になりやすいと言われています5)。これらの症状やリスクがあった場合、結核診断のスクリーニング検査である胸部X線検査(レントゲン検査)を行い、もし肺に空洞などの特徴的な陰影が認められれば、肺結核を一層疑います6)。採血によって結核に感染しているか否かを判断する検査には、IGRA(Interferon Gamma Release Assay: インターフェロンγ遊離試験)があります。この検査では、患者さんの血液に結核菌が増殖する際に分泌するタンパク質である結核菌特異抗原を混ぜて培養することで血液中のリンパ球を刺激し、産生されるインターフェロン-γを測定します。このような症状や検査所見から結核の疑いが強くなると診断を確定するための重要な検査である結核菌検出検査が、微生物検査室で行われます。

結核菌検出検査

結核菌検出検査には、塗抹検査、遺伝子検査(PCR検査)、培養検査の3種類の方法があります。それぞれの検査の特徴を表2にまとめました。結核は身体の様々な部位で病巣を形成しますので、肺結核が疑われる場合は喀痰や気管支洗浄液を、粟粒結核を疑う場合は血液や骨髄、肝臓などの組織を検体としてこれらの3種類の検査に用います。肺結核を疑う場合は喀痰を採取して塗抹検査と培養検査を実施しますが、1回の検査だけでは菌を捉える率が低いので3日連続で喀痰を採取して各々の喀痰で塗抹検査と培養検査を行うことが推奨されています。

塗抹検査とは喀痰などの検体をスライドガラスに塗り、染色をして細菌を顕微鏡で観察する検査です。通常、微生物検査では細菌を染色する時にグラム染色という方法を用いて光学顕微鏡で確認しています。しかし、結核菌は菌体周囲にミコール酸を中心とした脂肪酸を多量に含んだ細胞壁があるため、グラム染色の色素が菌体内に浸透せず、ガラス片のように抜けて見えてしまいますので(写真1)、結核を疑った場合は結核菌を染め出す特殊な染色法である抗酸菌染色法を用います。この染色法は、染色液に媒染剤である石炭酸を加えることで色素を細胞壁内に浸透しやすくした処理をした上で長時間もしくは加熱処理し、その後酸やアルコールで脱色する方法で、当院ではチールネルゼン法と蛍光法とを実施しています。この染色方法によって染色されたまま脱色されない菌のことを「抗酸菌」と呼び、結核菌は抗酸菌の一つです。チールネルゼン法は石炭酸とフクシン(赤色色素)の混合液である石炭酸フクシンで染めて、塩酸アルコールで脱色後、メチレンブルーで染めるので抗酸菌は赤色に、抗酸菌以外の菌や細胞などは青く染まります(写真2)。光学顕微鏡で1000倍に拡大して300視野(300か所)を観察します。蛍光法ではフクシンの代わりに蛍光色素を用いるので抗酸菌は黄色~緑色の蛍光を発する菌として観察されますが、抗酸菌以外の菌や細胞などは蛍光をほとんど発しません(写真3)。蛍光顕微鏡で200倍に拡大して30視野を観察します。塗抹検査の判定は視野に対しての菌数で表し、-、±、1+、2+、3+の5段階で報告します7)。菌数がわかるため、周囲の人に結核を感染させる可能性が高いかどうかの判断にもなります。抗酸菌染色は結核菌の他にも非結核性抗酸菌も染まるので、これらの染色が陽性でも塗抹検査の結果だけでは結核菌と断定できません。また、菌が生きているか死んでいるかも判断できません。

遺伝子検査は塗抹検査が陽性で結核菌か非結核性抗酸菌かの鑑別を行いたい場合やX線検査で結核が疑われるが塗抹陰性の場合などに培養検査を実施するタイミングで行います5)。喀痰などの検体中に存在する結核菌特有の遺伝子を専用の機器で増やして検出し、数時間で結果が出るため結核の早期診断に有用です。遺伝子検査は感度が高く迅速性に優れていますが、菌の遺伝子を検出する方法のため遺伝子が残っている死菌にも反応してしまうことから結核菌陽性の結果が出ても菌が生きているか死んでいるかの判断はできません。
培養検査は培地に喀痰などの検体を接種して菌の発育を見る検査で、菌が生きているか死んでいるかを判断できる重要な検査です。細菌は細胞分裂を繰り返しながら増えていきますが、結核菌は1回の細胞分裂に要する時間が15時間ほどかかるため(大腸菌は15-20分)、培地に発育するまでに3週間から8週間程度かかります。このように結核菌は培養に時間を要することや感染性・安全性の観点から、微生物検査で通常使用している血液寒天培地での培養は不適切のため、培地の乾燥を防ぎ安全性を高めるためにスクリューキャップが用いられている小川培地などを使用します。培養の結果は培地上のコロニー(菌体の塊り)数により、-から4+までの5段階で報告します(表3)7)(写真4)。そして培養検査を開始して数週間後に発育したコロニーは同定検査(結核菌か非結核性抗酸菌を決定する検査)や薬剤感受性検査に用いられます。

同定検査と薬剤感受性検査

同定検査では、まず小川培地に発育したコロニーをチールネルゼン法で染色して抗酸菌か抗酸菌以外の菌かの確認をします。抗酸菌と判断した場合は、コロニーの肉眼的観察から結核菌か非結核性抗酸菌かの予測はつきますが、最終的にはPCRで同定します。小川培地上での結核菌の特徴は淡黄色で辺縁が粗く、カサカサしたコロニーを形成します(写真5)。
薬剤感受性検査とは、結核菌と同定された後に抗結核薬の有効性を調べる目的で実施される検査であり、結核菌を薬剤に曝露して、発育の有無や程度を評価します。結果が得られるまでに2週間かかりますが、治療に使用している薬剤が効くかどうかや薬剤耐性菌を確認するために重要です。現在、当院では結核菌に対して硫酸ストレプトマイシン(SM) 、イソニアジド(INH) 、リファンピシン(RFP) 、塩酸エタンブトール(EB) 、硫酸カナマイシン(KM) 、硫酸エンビオマイシン(EVM) 、エチオナミド(TH) 、サイクロセリン(CS) 、パラアミノサリチル酸ナトリウム(PAS) 、レボフロキサシン(LVFX)の10薬剤の薬剤感受性検査を実施しています。

結核の治療

 薬剤感受性検査結果を参考にして治療を行います。現在、結核の治療は複数の抗結核薬による長期間の服薬が基本となります。代表的な治療法はINHとRFPを中心にEB またはSMの3剤、またはこれら3剤にピラジナミド(PZA)を加えた4剤の薬剤を6か月から12か月使用して行います。薬剤が効かない耐性化も問題になってきており、キードラッグとなるINHとRFPに耐性を示すものを多剤耐性結核菌(MDR-TB)と定義されています。日本におけるMDR-TBの割合は初回治療で0.5%前後、治療歴があるものでは3-4%程度9)、世界では初回治療で3.2%、治療歴があるものでは16%もあります 10)。さらにLVFX、モキシフロキサシン(MFLX)のどちらかに耐性でベダキリン(BDQ)、リネゾイド(LZD)のどちらか、あるいは両方に耐性を有するMDR-TBを超多剤耐性結核菌(XDR-TB)と定義されています(表4)11) 。MDR-TBの治療にはLVFX、BDQの2剤を基本として、LZD、EB、PZA、CS、デラマニド(DLM)、クロファジミン(CFZ)の8剤のうち5剤が菌陰性化の後、18か月間にわたって使用されます12)。このような薬剤耐性菌は途中で服薬を中止してしまうことなどで発生します。服薬管理が困難な患者では、服薬を医療スタッフなどが直接確認し飲み忘れを防ぐ、直接服薬支援(DOTS)が推奨されています。

おわりに

令和7年3月から厚生労働省は、アジア諸国からの結核患者の流入を防ぐ目的で、フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、中国国籍の方を対象に入国前結核スクリーニングを水際対策として開始しています13)。日本での罹患率は減少傾向を示していますが、今後さらに減らすためには症状や患者背景などから、まず結核を疑うことが重要です。結核を疑った際には塗抹検査、遺伝子検査そして培養検査を実施することにより生きている結核菌が患者さんの体内いることを速やかに発見し、そして薬剤感受性検査の結果から有効な治療に繋げることが重要です。特に薬剤耐性結核の場合は非常に重要で臨床検査技師がこれらの検査を担っています。また、結核の治療は長期の服薬が必要なため途中で服薬をやめないように管理し、治療困難な多剤耐性結核、超多剤耐性結核の発生を増やさないようにすることも大切です。これらの多岐にわたる対策を組み合わせて実施することが、結核を「過去の病」にする一歩になると思います。我々臨床検査技師は、日々患者さんからお預かりした検体を正確に検査すること、かつ迅速な報告することを通じて結核と戦っています。 

参考文献

  1. 世界結核報告書2024. WHO
    https://japan-who.or.jp/news-report/2411-7/  (Accessed on 2025.2.27)
  2. 結核登録者情報調査年報集計結果について. 厚生労働省 2023
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001295037.pdf (Accessed on 2025.2.27)
  3. 結核の常識. 公益財団法人 結核予防会
    https://jata.or.jp/dl/pdf/common_sense/2023.pdf(Accessed on 2025.2.27)
  4. 結核2023. 東京都福祉保健局 
  5. 結核とは. NIID 国立感染症研究所
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/398-tuberculosis-intro.html (Accessed on 2025.2.27)
  6. 結核の基礎知識. 公益財団法人 結核予防会 結核研究所
    https://jata.or.jp/about/basic/ (Accessed on 2025.2.27)
  7. 抗酸菌検査ガイド2020. 日本結核・非結核性抗酸菌症学会編集. 南江堂
  8. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases (2 Volume Set) 9th ed. 2019
  9. 吉山 崇.多剤耐性結核 Kekkaku Vol. 93, No. 11_12 : 553_560, 2018
  10. Global tuberculosis report 2024
    https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/379339/9789240101531-eng.pdf?sequence=1(Accessed on 2025.2.27)
  11. 日本結核・非結核抗酸菌症学会 抗酸菌検査法検討委員会. 超多剤耐性結核菌の定義と検査. 結核VOL99 No4. 105-108. 2024
  12. 日本結核・非結核抗酸菌症学会 治療委員会. 本邦での多剤耐性結核治療に対する考え方.  結核VOL95 No2. 79-84. 2020
  13. 厚生労働省. 入国前結核スクリーニングの実施について.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index_00006.html (Accessed on 2025.3.27)
 
 
 
 

Vol.129,2025.4
微生物検査室 福澤 滋

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