「免疫性血小板減少症」と検査について
2025年07月29日免疫性血小板減少症(Immune Thrombocytopenia, ITP)は血小板が減少して出血しやすくなる病気です。かつては「特発性血小板減少性紫斑病」と呼ばれていましたが、発症の機序が明らかになり、必ずしも紫斑が見られるとは限らないことから現在の名称に変更されました1)。今回のコラムではITPとその診断に必要な検査についてお話します。
血小板について
血小板は血液細胞のひとつで、直径2~4µmの最も小さな円形状の細胞です(写真1)。すべての血液細胞は血液の工場である骨髄で造血幹細胞から作られています。(詳しくは以前のコラム【血球がなくなる貧血、「再生不良性貧血」について 】をご覧ください。)
造血幹細胞は分化を繰り返しながら次第に成熟し、特定の機能をもつ成熟血球となります。分化・成熟は、さまざまな造血因子によって調整されています。血小板は造血幹細胞から分化・成熟した巨核球の細胞質から産生され、巨核球の増加・成熟の促進には主に肝臓で産生されるトロンボポエチン(TPO)という造血因子がその役割を担っています2)。
血小板は末梢血中におよそ15~35万個/µL存在し、骨髄から末梢血に流れてきたばかりの血小板は細胞質がRNAに富んでおり、網血小板(reticulated platelet; RP)と呼ばれています。血小板の寿命は約10日間で、そのうち最初の24~36時間が網血小板の状態にあると考えられています3) 。血小板は止血機構に重要な役割を持っており、血小板が減少すると止血する力が弱くなり、皮下出血や鼻血、歯茎からの出血などの出血症状が現れます2)。

免疫性血小板減少症(Immune Thrombocytopenia, ITP)とは
ITPは厚生労働省が定めている難治性疾患のひとつです。2004~2007年には約25,000名が罹患しており、年間の新規発症者数は10万人当たり2.16人、毎年新たに約3,000人が罹患すると推計されています。6歳以下の小児、20~34歳の女性・高齢者に好発し、近年は特に高齢者の症例が増加しています4)。
私たちの体には細菌やウィルスなどが体内に侵入したとき、それらを排除する免疫機能があります。そのひとつが抗体を作ることです。この免疫機能に異常が生じると、自分の細胞を攻撃する「自己抗体」が作られることがあります。
通常、寿命を迎えた血小板は脾臓で破壊されます。しかしITPの場合は血小板に対して自己抗体を作ってしまうため、脾臓は自己抗体が結合した血小板を破壊すべき細胞だと認識し、寿命を迎えていない血小板も壊してしまいます。また、この自己抗体は巨核球にも結合し、血小板の産生を抑制します。これらの機序による血小板の破壊、産生の抑制により血小板が徐々に減少します²⁾。
診断基準と検査について
治療の実績や研究を踏まえ、厚生労働省の研究班により作成された診療の指針である「成人免疫性血小板減少症診断参照ガイド2023年版」では、ITPの診断基準は次のように提唱されています。
- 以下のすべての項目を満たす
① 血小板減少を認める(10万/μL未満)
② 貧血を認めない
③ 白血球数は正常である
④ 末梢血塗抹標本で3系統すべてに明らかな形態異常を認めない - 血漿TPO濃度は正常~軽度上昇にとどまる
- 幼若血小板比率が増加する(RP%またはIPF%)
- 血小板減少をきたしうる各種疾患、二次性ITPを否定できる
診断に必要な検査は以下の検査項目です。
① 末梢血一般検査
血液中に含まれる血球の数を算定し、貧血の有無を確認する検査です。ITPでは白血球数は正常範囲内ですが、血小板数は10万/µL未満を示し、貧血は認められません。
② 血漿トロンボポエチン(TPO)濃度*
血小板数・巨核球数が減少するとTPO濃度が上昇し、骨髄における巨核球の増加・成熟を促します。反対に血小板数・巨核球数が増加すればTPO濃度は低下します1)。ITPでは血小板数は減少するものの、巨核球数は正常あるいは増加していることがほとんどなので、TPO濃度は正常~経度上昇に留まります。
③ 幼若血小板比率(RP%またはIPF%)*
網血小板(RP)は前述したように、骨髄における血小板産生能を反映することで知られており、ITPでは血小板破壊が亢進し血小板寿命が短縮することにより、骨髄で巨核球産生が促進されるためRPは増加します。しかし測定には特殊な装置を必要とし、測定方法は煩雑で熟練を要するため臨床検査としては不向きであったため、現在まで普及していませんでした。しかし、近年一部の自動血球測定装置(末梢血一般検査を測定する装置)でRPと同等の感度・特異度を有する幼若血小板(IPF)が測定できる方法が開発されました1)。必ずしもRPと同一のものを測定しているわけではありませんが、同じように血小板産生能を反映しています。また、どちらも標準化された正常範囲は存在しないため、測定している施設ごとに基準値が設定されています。
④ 骨髄検査
血小板が減少する他疾患との鑑別を行うための検査です。通常の巨核球の細胞質には顆粒が豊富にあり、外側には血小板の集まりが見られ、血小板が産生されていることがわかります(写真2)。ところが、ITPでは血小板の産生が抑制されているため、巨核球の細胞質のまわりには血小板が付着している像が少なく、そのような巨核球が正常~増加しています。(写真3)。ITPが疑われた場合、巨核球の数だけでなく、他疾患を示唆するような異常がないかどうか注意深く観察しています。

おわりに
紫斑などの症状からITPの診断に繋がることもありますが、症状がなく健康診断で血小板数が低いことから発見されることもあります。疾患に関する研究が進んだことでITPの名称が変更になったり、技術の進歩により幼若血小板比率の測定が広く可能になったりと、医学の世界は日進月歩です。検査をしている私たちも常に情報をアップデートし、業務にあたっています。
*2025年7月1日時点、保険未収載項目
参考文献
- 柏木浩和,桑名正隆,村田満,島田直毅,高蓋寿朗,山之内純,ほか.成人免疫性血小板減少症診断参照ガイド2023年版.臨床血液.2023;64;1245-1257
- 病気がみえる vol.5 血液 メディックメディア
- 高見昭良.幼若血小板比率の臨床意義.血栓止血誌.2010;21:547-552.
- 難病情報センター 特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/157 (Accessed on 2025.07.20)
臨床化学・免疫検査室 大山 敦子
投稿者:管理者
カテゴリー:未設定
- 記事はありません
- 結核は過去の病だと思っていませんか?


