「沈黙の臓器」腎臓の声を検査で聞こう!

はじめに

近年、テレビやSNS、YouTubeなどで、「体によい食べ物」、「本当は体に良くない食べ物」、「1日10分のストレッチ」といった、日頃の生活の中で健康につながる習慣を見直そうとするコンテンツをよく見かけるようになりました。その背景には、「生活習慣病」という言葉が広く一般に浸透してきたことがひとつの理由かと思います。
今回のコラムでは、こうした生活習慣病と深く関連し、国民病とも呼ばれる慢性腎臓病(CKD)を取り上げます。1)

Ⅰ.腎臓のはたらき

腎臓には体に不要な老廃物や毒素、余分な水分を尿として体外に排出する働きや、体を構成する様々な成分の調節、血圧の調整、ホルモンの産生など、私たちの体の状態を一定に保つための重要な役割があります。
尿は、腎臓の中にある「糸球体」と呼ばれるフィルターで血液が濾過されてできる「原尿(げんにょう)」がもととなります。原尿は、尿細管という通り道を通る過程で、体に必要な成分が再び吸収されて、最終的に「尿」となり、尿管を通って、膀胱に溜まり、体外へ排出されます。2)

Ⅱ.慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease :CKD)とは

腎機能低下が3か月以上持続する状態を指します。
原因は腎臓自体の病気に限らず、糖尿病や高血圧といった生活習慣病によっても引き起こされることがあります。これらの生活習慣病は、運動不足、肥満、ストレスなどがリスクとなります。高血糖・高血圧状態が続くと、血管はだんだんと傷んでいきます。特に目の網膜や、腎臓の糸球体を構成する微細な血管はその影響を受けやすく、血管の障害が臓器の機能低下につながります。
腎機能が低下し、老廃物や余分な水分を体外に十分に排出できなくなると、倦怠感、体のむくみ(浮腫)、吐き気、知覚障害、呼吸困難など様々な症状(尿毒症)が現れることがあります。CKDの進行により、腎臓の働きだけでは体の状態を維持することが難しいと判断された場合、腎臓の機能を補う治療として透析療法の導入が検討されます。2)

【CKDの診断基準 (図1)】
① 腎障害の存在が明らかであること
② 糸球体濾過量 (glomerular filtration rate :GFR)の低下

これら①②のいずれか、または両方が3か月間持続する場合にCKDと診断されます。

CKDと診断されたら、⑴原疾患の有無 ⑵蛋白尿区分 ⑶GFR区分 の3つの情報を以下の表に当てはめて、重症度分類をします。(図2)

CKDではこのステージが進行するほど、腎不全や心血管系の疾患を合併するリスクが高まることが知られています。これを防ぐため、食事療法や薬の服用、生活習慣の改善によって、ステージの進行を遅らせることがCKD治療の目標の1つです。1)

Ⅲ.腎機能を評価する検査項目

CKDは自覚症状に乏しく、検査によってはじめて異常が見つかることがあります。
では、CKDの診断や経過観察に用いられる検査項目には、どのようなものがあるのでしょうか。(※検査の基準値は、施設によって異なる場合があります。)

【血液検査】
・血中クレアチニン(Cre)  (基準値:男性 0.65~1.07mg/dL 女性 0.46~0.79mg/dL) 3)
クレアチニンは、肝臓で合成されたクレアチンが筋肉に取り込まれた後に変化した老廃物です。クレアチニンは血管を通って、腎臓の糸球体でほとんど濾過され、尿中へ排泄されます(図3)。腎機能が低下するとクレアチニンが濾過されず、血液中に残るため、血中クレアチニン値が上昇します。
また、クレアチニンの生成量は筋肉量に比例するため、筋肉量が多い人では高く出ることがあり、男性の方が女性より基準値が高いとされています。2)

・推定糸球体濾過量(eGFR)(基準値:60mL/min/1.73m2以上)3)
糸球体濾過量(GFR)とは、腎臓の糸球体が血液をどの程度ろ過できているか、いわゆる「腎機能」を評価する指標となるものです。しかし、GFRを正確に算出するには煩雑な検査が必要となるため、通常の診療では血液検査の結果などから推定した値であるeGFR(推定糸球体濾過量)が用いられます。eGFRは腎機能評価だけでなく、CKDの診断や重症度分類にも利用されています。(※18歳未満の方や、筋肉量が非常に多い、または少ない場合などでは、正確に評価できないことがあります。)2)
eGFRは年齢、性別、血中Cre値を用いて、以下の計算式(図4)より算出することができます。 【東邦大学 医療センター 大森病院 腎センター eGFR計算ツールはこちら

【尿検査】
・変形赤血球(尿沈渣検査)(基準値:(-))4)
尿沈渣検査とは、尿検体を遠心分離し沈殿した尿中成分を顕微鏡で調べる検査です。顕微鏡で尿沈渣標本を400倍に拡大した視野で、1視野あたり5〜9個以上赤血球が見られる場合を「血尿」と言い、赤血球の形状の違いから、均一赤血球(非糸球体型赤血球)と変形赤血球(糸球体型赤血球)の2種類に分類されます。均一赤血球の出現は泌尿器疾患(感染症や結石、外傷、腫瘍など)を、変形赤血球は糸球体病変があることを示唆します。4) 

 ・尿中蛋白(U-Pro)(基準値(定性値):(-))5)
健常な糸球体では、血液中の蛋白はほとんど濾過されず、尿中に排泄される量は非常に微量です。しかし糸球体に障害があると、蛋白は糸球体を通過して、尿中に多く排泄されるようになります。蛋白尿がでている状態は、糸球体そのものにとって負担となり、腎機能低下を早める原因となります。6)

・尿中アルブミン(U-ALB)(基準値(蓄尿):18.6 mg/g・Cr以下)5)
アルブミンは蛋白の一種で、血中蛋白の50~70%を占める成分です。糸球体に障害が生じると、尿蛋白検査では異常を認めない段階から、微量のアルブミンが尿中に排泄されるようになります。
アルブミン尿は糖尿病合併症の一つである、糖尿病性腎症の最も早期のサインとされています。そのため、糖尿病患者さんは定期的にU-ALBを測定し、糖尿病性腎症の早期発見と進行予防につなげることが重要です。1)

Ⅳ.日本における現状

日本のCKDの推定患者数は約2,000万人、成人の5人に1人が罹患していると言われています(2024年推計)。図6は慢性透析患者数と有病率の推移を表すグラフ、図7は透析導入患者の主要原疾患の推移を表すグラフです。1968年から近年まで透析患者数は増加傾向にあり、その原因の多くは糖尿病、腎硬化症といった生活習慣病から引き起こされたCKDです。7,8)
これが国民病と呼ばれる、CKDの現状です。

Ⅴ.おわりに

CKDは、健康診断などにより偶然見つかることがあります。自覚できる症状がほとんどあらわれず、気づいたときにはすでに進んでいることも少なくありません。CKDによって失われた腎機能は、ほとんどの場合元に戻すことができません。
だからこそ、定期的な検査が大切になります。今回ご紹介した検査値のうち1つでも異常がある場合は、腎臓が静かに異常を知らせているサインかもしれません。気になる結果があるときは、早めに医療機関を受診しましょう。 

参考文献

  1. 慢性腎臓病診療ガイドライン2024 一般社団法人 日本腎臓学会
  2. 病気が見えるvol.8 腎・泌尿器 メディックメディア
  3. 東邦大学医療センター 大森病院 臨床検査部 基準値一覧
  4. 尿沈渣検査法2010 社団法人 日本臨床衛生検査技師会
  5. 臨床検査法提要 改訂第35版 金原出版株式会社
  6. わかりやすい病気のはなしシリーズ22 一般社団法人 日本臨床内科医会
  7. 2024年慢性透析患者の動態 一般社団法人 日本透析医学会
  8. 2024年透析導入患者の動態 一般社団法人 日本透析医学会

Vol.133,2026.4
一般検査室 冨山遥

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